【忘れない命を守る対策】地震発生直後を襲う窒息死とは何か? 死亡診断書は物語る。阪神・淡路大震災でなぜ「圧死」はわずか8%だったのか
阪神・淡路大震災から26年 地震大国日本_来たるべき大地震に備えてこれからの防災を考える②
今後30年で高い確率で起きると予測される各地の大地震。
とくに首都直下地震は70%。死者2万を超え、経済損出は95兆円超とも達すると言われています。都市直下型の地震の事例として26年前の阪神・淡路大震災から犠牲者の死因を検証し、「救えた命」の教訓と向き合いながら命と資産を守るための対策を考えます。
■臓器損傷のない遺体 胴体に残る白い帯状の跡
なぜ、地震で多くの人が「窒息」で命を絶たれるのか(以下、前掲書から一部引用)。窒息死の遺体にはある共通の特徴があったとされる。
阪神・淡路大震災で、当時200人以上の遺体を検案した監察医・徳島大学医学部教授の西村明儒(にしむらあきよし)氏によると、窒息死の遺体には骨折や臓器損傷など目立った損傷がほぼなく、一方で、遺体の大半に衣服下の肌にある異変──白く変色している部分が胴に帯状にあったという。その変色は何かに強く押された跡だという。
なぜ、それが窒息と結びつくのか。その理由は、人の呼吸の仕組みと密接に関係していた。
通常、人は、肺の下にあって腹と胸の境にある横隔膜が動いたり、胸全体がふくらんだり縮んだりすることで酸素を取り入れ呼吸している。
しかし、その胸や腹の上に重量物、例えば柱や梁、家具などが載れば、横隔膜や肺の動きが止められ窒息するというのだ。これが外傷性窒息(がいしょうせいちっそく)と呼ばれるメカニズムだ。
鼻や口が塞がれる窒息を気道閉塞性窒息とは別に、胸や腹の上に圧迫が加われば、呼吸はできなくなる。阪神・淡路大震災では、この外傷性窒息が多くの人の命を奪う原因となった。しかも想像以上に重くないものでも、窒息を引き起こし致命的になる危険がある。
また氏は、外傷性窒息が起こるメカニズムには特有の「怖さ」があると指摘する。それは、体の上に落ちてきたもの(柱、梁、家具など)が、足や腕の上に載るか、それとも胸や腹の上に載るか、まさに「当たりどころ」次第で生死の運命が決まるということだ。
そこで窒息に至るまである程度の時間があれば、その間に多くの人を助けられるのではないのか、という考え方は大都市震災の実態を考えると、「現実的ではない」と氏は強調する。
理由は、外傷性窒息で救える命の限界はおよそ1時間以内といわれるが、しかし、多くの大震災では、広範囲で多数起こるため、何千人もの人が家の下敷きになっている中で、同時に救い出すことは不可能だからだ。
かげがえのない命を運命に左右されずに守れるのであれば、建物の耐震化、その備えは急務となる。
■建物の耐震化で守れた命旧耐震基準で倒壊・大破3割
窒息死の要因は建物倒壊によるものである。同震災では、1981(昭和56)年以前の震度5強の旧耐震基準(旧耐震設計法)での建物は約3割が倒壊、大破した。一方、82年以降の新耐震基準の建物は
75%が軽微・無被害だった。
では、こうした建物倒壊から命を守るために耐震化の観点から向き合うとすれば、私たちは何をどのように対策を講じればよいのか──。
生命と資産を守るための耐震化対策。
地震大国から地震耐国へ——私たちが、いま、できる「耐震」への確かな一歩その対策を考えてみよう。
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