【令和の教育様式】技術だけの「Society5.0」は教員と教育に何をもたらすのか |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

【令和の教育様式】技術だけの「Society5.0」は教員と教育に何をもたらすのか

第62回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■文科省が考える令和の教育

 萩生田光一文科相が、教員免許取得するための大学における現行の教職課程を否定する発言をしている。1月19日の記者会見で次のように述べている。

「(いまの教職養成課程では)昭和の時代からの教職課程をずっとやっているわけじゃないですか。そうすると、こんなに学校のフェーズが変わるのに、教えている大学のトップの人たちは、まさに昔からの教育論や教育技術のお話をしているわけですから」

 現行の教職課程は昭和の教職課程であり昔のもの、つまり「時代遅れ」というわけだ。
 萩生田文科相は「誤解を恐れず申し上げれば」と前置きしている。誤解も何も、彼が現行の教職課程を否定し、昭和の遺物と考えていることは明白だ。そして彼は、「時代に合った教員養成」とするために教職課程を大きく変えていかなければならないと訴える。
 彼の言う時代とは、何につけても文科省が口にしている「Society5.0時代」である。これは、5年ごとに改定される科学技術基本計画の第5期(2016年度から2020年度)で登場したキャッチフレーズであり、我が国が目指すべき未来社会の姿であると政府は位置づけている。文科省も、この「Society5.0時代」に合った教育を目指しているわけだ。その「Society5.0」については、次のように説明している。

「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」

 これだけで、「その時代」の姿を目に浮かべることは難しい。ただ、これまでの時代とは違うらしいニュアンスだけは伝わる。だから新しいことをやろうとする際に「Society5.0」を持ち出せば、一応の説得力はある。また、従来のものを否定する場合にも力を発揮したりもする。
 萩生田文科相の物言いもまさにこれだ。「昭和の教職課程」を否定し、新しい「Society5.0時代に合った教職課程」にしなければならないというのだ。その牽引役は文科省だ、と暗に強調してもいる。

■「Society5.0」の中身は未定

 では、昭和を否定した「Society5.0時代の教職課程」とは、どういうものなのだろうか。そこまでは、萩生田文科相は示していない。
 また、昭和の教職課程がなぜダメなのか、そこを文科相はまったく触れていない。「Society5.0時代」になるから、その前の昭和のものはダメだと言っているだけである。これでは「時代が変わったのだから、過去のものは捨てて、新しいものにしていく」と言っているのと変わらない。文科省の新しい仕事をつくっているにすぎない。

 事実、この日の会見で萩生田文科省が強調したかったのは「『令和の日本型学校教育』を担う教師の人材確保・質向上に関する検討本部」(以下、検討本部)の設置である。文科相を本部長とする省内横断の組織として発足したことを、この日の会見で彼は報告している。
 昭和の遺物である現行の教職課程に代わる「Society5.0時代の教職課程」を、これから検討本部で考えていこうというわけだ。昭和の教職課程が「Society5.0時代」に通用しない理由についても、この検討本部で明らかにされていくのだろうか。

 

次のページ技術重視・理論軽視の教育現場は変わるか

KEYWORDS:

オススメ記事

前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

教育現場の7大問題
教育現場の7大問題
  • 前屋 毅
  • 2018.05.26