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がん治療で「頑張る」ことの限界

1万人以上のがん患者を治療する放射線治療専門医が語るがん治療最前線

■「○○がいけない」で人生をつまらないものにしない

 私たちは生まれたときから死に向かっており、生きていること自体が病気の原因をつくっているとも言えます。人生の楽しいことは、体に悪いことも多いのです。

 たとえば、お酒を多量に飲めば、食道がんや肝細胞がんのリスクを高めます。野菜には農薬が使われ、さまざまな食べ物の中には添加物が入っており、発がん性が疑われるものもあります。しかし、いちいちそんなことを気にしていたら、食事がつまらないものになってしまいます。 
 スポーツも、過ぎれば活性酸素をつくって老化を早めます。

 つまり、完全に健康的な生活など不可能に近いのであって、「あれがダメこれがダメ」と神経質になってストレスをためているほうが、よほど体に悪いでしょう。

 ましてや、がんにかかってから「やっぱり○○がいけなかったんだ」などと思ってみても意味はありません。自分を否定するような言葉は御法度にしましょう。

■治療で「頑張れる」ことは案外少ない

 こうした日本人らしさは、がん治療の現場でもいかんなく発揮されます。とにかく、「治療を頑張ろう」とする方がよくいらっしゃいします。

 この「頑張らなければ」という気持ちは、つらい治療も乗り越える原動力になるのは事実です。

 一方で、「つらくない治療では心許ない」とおかしな考え方をしてしまうのは困りものです。もっと楽で効果が期待できる治療法があるのに「手術しなければ気が済まない」のは、この考え方によるところが大きいのではないでしょうか。

 このような頑張り屋さんは、標準治療だけでは「まだ頑張り足りない」とばかり、次々と怪しい免疫療法などに手を伸ばしがちです。「自分にやれることは何でもやらねば」と思うのでしょう。

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武田 篤也

たけだ あつや

放射線治療専門医。1994年、慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院、防衛医科大学校病院、都立広尾病院にて放射線治療診療を行う。2005年に大船中央病院に赴任し、放射線治療センターを開設。以降13年あまりの間に、全国有数の高精度放射線治療施設とする。SBRT(体幹部定位放射線治療)を2000例以上行う(肝臓がんは世界1位、肺がんは国内2位)。70編以上の医学英文論文に加えて専門書『The SBRT book』(篠原出版新社刊)を執筆。中東の某石油産出国の国王に呼ばれ、診療を行った経験もある。


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  • 武田 篤也
  • 2018.01.19