【三方よしの現場】介護事業者・被介護者とその家族を「快適にさせる」DX化によるイノベーション
多忙な介護現場における業務において、いかに効率化をはかることができるのか。その問いは、事業者と被介護者とその家族の負担をどのように軽減できるのかということと同義だ。裏を返せば、要介護者への介護サービスへの人的リソースを、より厚い介護に集中できる「環境整備」がコロナ禍のいま、急務なのである。
この環境をDX(デジタルトランスフォーメーション)の見地から新たに創り出したイノベーションについて議論する。
◼︎介護現場の「密」を回避するDX化
2021年1月8日、『新型コロナウイルス感染症対策分科会(第21回)』(内閣官房)の資料が公表されると、介護現場の深刻な状態が浮き彫りとなった。昨年12月以降、新型コロナウイルスによって引き起こされたクラスター(5人以上の感染者が出たケース)のうち、45%が医療・福祉施設で発生したというのである。
株式会社カナミックネットワーク代表取締役の山本拓真社長(以下、山本氏)は、こうした事実を受け、速やかに対策を講じた。
同社は、「超高齢社会における地域包括ケアをクラウドで支える」という経営理念を持つ。医療・介護・健康情報などの情報を共有できるICTプラットフォームを提供し、要介護者と患者、その家族が質の高い医療・介護サービスを受けられることを目指している。その企業のトップが、介護現場のクラスター対策が後手に回っていることを、早くから憂慮していたのである。
「介護の仕事は、動けない要介護者を抱き起こす、車椅子に乗せる、食事させる、入浴させるなど、対面し、密着しないとできない仕事です。ソーシャル・ディスタンスなど無理な職種。そうした現場に、ウイルスが侵入してくることは容易に想像できたはずが、対策が進んでいないのが実情でした」(山本氏)
では、どうすればよいのか? やるべきことは多岐にわたる。
「まず、リモートワークを介護現場もできる範囲で導入し、事業所へ出社する職員を極力減らすこと。介護には、この発想がなかったんですね」(山本氏)
そこで、ヘルパー、看護師、リハビリ指導員など対面介護を担う職員以外、例えば事務員だけでも、出社しないで済む体制に移行できないか。そうすれば事業者内の従業員の数は減り、密は避けられ、感染リスクも軽減できる——山本氏は、こう考えた。
介護事務をDX(デジタル・トランスフォーメーション)化しコストも削減するために昨年12月にスタートしたのが、「カナミックかんたんWeb明細」と、「カナミックかんたん郵送代行」だ。介護業務に係る膨大な事務仕事を大幅にDX化することによって効率化し、リモートワークを推進する新サービスである。介護サービスにおける事務処理の煩雑さを、山本氏が説明してくれた。
「平成12(2000)年に介護保険法が制定されてから20年以上が経ちますが、昨年まで介護業界ではほぼ100%、要介護者の家族に送る介護サービス請求書や領収書を、郵送していました。職員総出で2日間、規模が大きな事業所では丸4日間かかる、ひと月の業務量で事業所全事務業務の10〜20%を占めるとてつもなく大変な作業だったのです」(山本氏)
◼︎介護現場でも「リモートできる」という発想の転換
介護サービスのなかには介護保険が適用されるものと、適用外のものがある。例えば、ケアプランで認められたサービスは保険が適用されるが、福祉養護(要介護者の私的なことを養護する:介護保険外サービス)は適用外。適用外は、もちろん自費である。
また、保険には毎月限度額が設定されているが、限度額を超えてしまい、超過分は自己負担というケースも多い。
そうした「個別のケース」を、介護サービス事業所職員が毎月計算し、請求書を作成して郵送していた。
次に、届いた請求書をもとに要介護者の家族が支払いを行う。支払いは銀行口座からの自動引き落とし、または振込。
支払いが確認できると、今度は事業所は領収書を発行し郵送する。
介護サービス費用は医療費控除の対象となるため、年末調整や確定申告に必要であることから、交付は事業所に義務付けられているのだ。
こうした作業を、全国約38万ある介護事業所と、約650万人の要介護者の家族が、毎月延々と繰り返してきた。
「従来は介護サービスの詳細をプリントアウトし、三つ折りに畳んで被介護者のご家族へ直接、郵送しておりました。しかも、介護事務レセプトで一つでもまちがえたら国から返戻されて再発行になります。事業所はその対応に悲鳴をあげていました。事業所全業務の10〜20%を占めていた事務手続き効率化の対応策が、弊社のWeb明細と郵送代行サービス(BPO)です(【図表】参照)。この煩雑な明細の交付を、インターネット経由に変えていつでもどこでも見れるようにします。もちろん作成にあたっては当該事業所にも確認してもらいますが、事務処理は大幅に軽減されます。また、これも見逃せないですが、web明細だと収入印紙は不要です」(山本氏)
要介護者の家族が支払いを済ませると、自動的に入金処理がされて領収書が発行されてWEBで確認できる。郵送を希望する方には、責任を持って紙での郵送まで代行する。
「書類の郵送費と発送作業費も、事業所にとって大きな負担でしたが、請求書の印刷・郵送代、人件費まで、数十万円を削減できるというメリットも大きい。介護業界はペーパーレス化が極端に遅れていたので、ここを効率化することに大きく貢献してくれたと、喜んでもらっています」(山本氏)
そして大切なのは、同社の新サービスが介護現場のクラスター対策の鍵になり得るということ。介護系の職種はリモートワークに向いていない、または不可能という固定観念を打破しなければ、ウイズ・コロナ時代には立ち行かなくなっていくだろう。
「できることから、少しすつでも効率化していけば、介護業界の未来は変わるでしょう。コロナ禍の状況下、その一歩を踏み出せたことが、何より重要だったと私は考えております」(山本氏)
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株式会社カナミックネットワーク
【PROFILE】山本拓真(やまもと・たくま)
株式会社カナミックネットワーク代表取締役社長。2000年、株式会社富士通システムソリューションズ(現富士通株式会社)を経て05年、同社常務取締役、07年専務取締役。11年、国立大学法人東京大学高齢社会総合研究機構研究員、12年、国立研究開発法人国立がん研究センター外来研究員。14年9月より同社代表取締役社長(現任)、16年東証マザーズ上場、18年東証一部上場。