国民が貧困にならなければ、国家は赤字になっても構わない【中野剛志×黒野伸一】
この国はどうなる!? ポストコロナとMMT【対談第3回】
長期デフレ不況で日本経済が衰退しているところで襲ってきたコロナ禍。日本はこのまま崩壊してしまうのではないか? どうすればこの国は立ち直れるのか? 財政再建を目指して、国民は死す。これではいったい何のための国家であり、政府なのか? そんな強い危機意識と微かな希望を抱き、最新刊の小説『あした、この国は崩壊する ポストコロナとMMT』(ライブ・パブリッシング)を上梓した小説家・黒野伸一氏。この小説執筆の構想に触発を与え続けたという『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室』(KKベストセラーズ)を著した評論家・中野剛志氏と、「日本経済崩壊の本当の理由と、この国のゆくえ」について熱く語りあう対談。第3回完結編を公開。
黒野:MMTで一つ言いたいことがあって、インフレになるとか、そういうことは置いておいて、全世界60億人の人が投資をしたり貸し借りをしたりして、当然、不安になるわけですよ。投資は回収できるんだろうか、貸した金は返ってくるだろうかとか……。不安になるからクラッシュが起きたりする。でも全員が、大丈夫ですと、金なんて返せますから、返せなかったらまた刷ればいいだけですから。借金、国の赤字は膨らみますが大丈夫だと。そのままにするとインフレになりますが、それはまあ置いておいて、みんながハッピーで誰もクラッシュもしなくて、貧困もなくなりましたと。で、ある日、巨大隕石が地球にぶつかって人類は借金を踏み倒して滅亡しました。これ、どこがいけないんですか? だって、借金は残ったけど、そんなもの残ったっていいじゃない。
中野:自国通貨を発行する国が政府債務を増やしてはいけないというのは、国が貨幣を増やしてはいけないと言っているのと同じです。まず、そこにそもそもの誤解がある。つまり、貨幣とは、絶対に返ってくる債務のことです。黒野さんがおっしゃったように、「財政赤字は膨らみますが、大丈夫です」と言って政府の債務が膨らんでいるというのは、政府が貨幣をそれだけ発行しているということです。高インフレさえ起きなければ、それでもいいんです。実際、政府債務の総額は、経済成長とともに増えていくもの。政府債務を返し切った国なんてないわけです。政府の債務というのは、民間企業や一般家庭の家計でいうところの債務とは全然違うわけです。もしかしたら、国債、つまり政府の債務のことを「債務」という言葉を使うことがいけないのかもしれない。
黒野:そうですよね。
中野:みんな「債務」という言葉に引っかかってしまう。債務というのは、太古の昔から返さなくてはいけないものだと考えられてきましたから。同じように政府の「財政赤字」というのも、「赤字」っていったら、それは減らした方がいいものとなってしまう。MMTが流行る前ですけど、ある政治家の先生からこう言われたんです。「国債を発行して良いことのために使おうとしているのに、これ以上発行するのはダメだと言われるのは国債という言葉がよくないんじゃないか」と。未来の投資に必要なものだから「未来投資国債」と呼んだらどうだろうと言う人もいました。私は、「お気持ちはわかるんですけど、またなんかそうやってごまかしていると言われて終わりですよ」と答えた覚えがあります。で、私が代わりに出したアイデアは「財政再建国債」。「よし、財政を再建するために「財政再建国債」を大量に発行するぞ」と言えば、財政再建論者たちは「ええっ、それって発行していいんだっけ、悪いんだっけ」ってみんな混乱するぞって(笑)。
黒野:例えば夕張って破綻したじゃないですか? 東京都は今黒字ですけど、コロナの影響などでもしも仮に東京都が財政赤字になったとする。そうすると東京都は都債を発行するけれども国が保証しますと。だから大丈夫ですと。国はまさか東京都を潰そうとは思わないですよ。でも夕張は見捨てられた。見捨てなかったらつぶれないわけです。
中野:そうですね。
黒野:可哀そうだから見捨てるなよと言えばいいだけの話なんですよね。
中野:そうなんですけど、実際に世の中の人とかが言うのは、「無駄遣いをしたんだから潰せ」と。それがまさに起きたのがギリシアですね。ユーロっていうシステムに入ったので、自国で通貨を発行できなくなった。で、財政赤字になって潰れかかったんだから、本当はほかのユーロ加盟国、例えばドイツとかはギリシアを助けるべきなのに、ドイツ人たちは「あんなに無駄遣いして、赤字を作って破綻したギリシア人たちをなんで俺たちが助けなくてはいけないんだ」ってなってしまった。