俺たちのガースー、丸腰訪米首脳会談の憂鬱【山本一郎】
【連載】山本一郎「コップの中の百年戦争 ―世の中の不条理やカラクリの根源とは―」
■今後もバイデン政権は中国に対しては厳しい外交姿勢で臨む
ウイグルの問題については、その前からチベット問題や、内モンゴルで中国の「国内問題」として扱われてきた民族浄化や文化破壊といった側面がクローズアップされつつ、その中国の「外縁部」に位置するミャンマーや香港、台湾海峡、韓国・北朝鮮といった、中国と国境を接するアジアの隣国の政変に深く中国が関与し、さらには香港やミャンマーでは顕著なように民主的な手続きで選ばれるリーダーや住民の自主的な政治活動に対する弾圧を実質的に中国が対外政策として後押ししているのではないかという懸念が広く共有されています。
中国からすれば、一連の問題は地域派遣を求めるような野心的なものではなく、むしろ中国の国体を維持し国家経営を潤滑たらしめるための「自衛的な政策」と位置づけられています。中国は中国の考える中核的な利益のために、自国内や隣接国に対して中国的な価値観で秩序を実現しようとしているに他ならないという考えです。中国の本来得られる国益を担保するための活動なのであって、対象国や地域にとっても安全と利益があり、中国と共に平和と繁栄を約束するものだとかなり本気で思っている節があります。
しかしながら、民主主義陣営からすれば、地域の住民による自治や国民の普通選挙によって選ばれたリーダーこそが正統性のある元首であるべきだ、民主的に開かれた政治によって権力の透明性が保たれたうえで、すべての人たちに等しく人権が与えられ踏みにじられてはならないと考える以上、なかなか折り合える余地がありません。
結果として、これらの問題について話し合う米中間のハイレベル協議が19日、アラスカ州アンカレッジで行われました。結果としては、派手に決裂をしてしまったわけですが、トランプ前政権から移行したバイデン政権もなお、中国に対しては厳しい外交姿勢で臨んでいることを示すものであると同時に、中国に対して「上から目線」で要求してくるアメリカに対して中国首脳が「強く言ってやった」ということで、経済的繁栄で国威台頭に自信を持っている中国世論もこれを歓迎、米中対立は一層激しいものとなります。
そして、中国国家主席である習近平さんが訪米する形での米中首脳会談は当初見込まれていたスケジュールさえも白紙になるほど、当面の収拾のめどは立たなくなったとも言えます。
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