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生物学の研究が証明する、子育てを夫婦二人で乗り切る難しさ

京都大学 霊長類研究所の中村克樹先生インタビュー(後編)

育児を通した夫婦関係について、「夫」目線で考える本特集「『イクメン』って結局なに?」。ここまでの記事の内容にもあった通り、夫婦間のコミュニケーションを良好にするうえで、やはり互いの違いを理解することは必要不可欠なようだ。
そこで今回も前回に引き続き、脳科学の分野から男女の違いについて考え、夫婦が協働して子育てをするためのヒントを得たい。

◆親になることで脳にも変化が起きているかもしれない

 

「説明しなくても、夫婦なんだから察してほしい」という台詞は、多くの妻にとっての十八番だろう。そのくらい、妻の真意を汲み取るというのは、夫にとっては至難の業であり、妻が求め続ける限り二人の間にできた溝は埋まりそうにない……。
 今回、夫婦間のコミュニケーションのズレの原因を脳科学の分野から探るため、京都大学 霊長類研究所 神経科学研究部門 高次脳機能分野 教授の中村克樹先生のもとを訪ねた。前回の記事では、男性と女性の脳にはたくさんの違いがあるから、興味・関心・物事の捉え方などが違ってもおかしくないということを説かれた。そして男女がお互いの違いを受け止めることの重要性について改めて深く考えるきっかけを得た。やはり当事者にしかわからないことがあるとしたら、他者を心底理解するのは難しいことなのだろうか。

「相手を完全に理解するのは困難ですが、互いの脳が全く変化しないかというと、そうではありません。例えば、赤ちゃんを育てるということでいうと、我々は今から赤ちゃんになれるわけではないですよね。でも赤ちゃんを抱き、間近で世話をしているだけで、大人の体内には変化が色々起こっているんです。例えば赤ちゃんにおっぱいを吸われるとオキシトシンという物質が出る。男性はおっぱいをあげないけれども、柔らかい、温かい赤ん坊を抱いているだけで、そこに愛情・愛着が芽生えてきてだんだん無力な可愛い生き物を受け入れようという気持ちが育っていくものです」と中村先生は話す。

 子どもがいることで、親の体に変化が起こるということは、脳にも何か変化が起こっているのだろうか。
「答えを言ってしまうと、ヒトの脳で調べられることには限りがあるのでよくわからないです。ただ、同じように大人になったオスのサルの脳を比べた興味深い研究があります。一方のサルは親になっていて、もう一方のサルは親になっていません。脳の前頭前野というところを調べると、バゾプレシンという情報を伝える物質の受け取り方を決めるタンパク質の出現のパターンに違いが見られました。バゾプレシンは、子どもへの愛着に関係すると考えられている物質なので、親になったことで子育て行動に必要な脳に変わってきているのではないか、という仮説が立てられます。我々ヒトの世界でも同じ変化が起こっているかどうかは分からないですが、例えば今まで歩きタバコをしていた人が子供の顔の高さに自分の手があることの危険に気づいてやめたり、電車や飛行機の中でギャーギャー泣いている子供への対応が優しく変わったり……。親になって初めて考え方が変わる、というのは脳の変化が伴っていてもおかしくないことだと思います」

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