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企業と産業医はグルになってメンタルに難を抱えた労働者を働かせる?

「あなたは“うつ”ではありません」産業医の警告6

企業側は社員のメンタル問題に過剰反応している……こう警鐘を鳴らすのは、「産業医」(※事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられる)として多くの企業でメンタルヘルスの面談を行う山田博規氏だ。山田氏が3月に刊行し話題を呼んでいる『あなたは“うつ”ではありません』から紹介する第6回。
【本書(編集部注:本記事)はうつ病を治すためのノウハウを紹介する類の本ではありません。むしろ現在うつ病の投薬治療を受けている方にとっては、受け入れがたい事実がたくさん書かれているかと思います。
 ですが、くれぐれも自己判断で現在処方されている薬の量を減らしたり、服用を止めたりしないよう、お願いします。
 抗うつ薬をはじめ、精神科で処方される薬は、一般的な薬と比べて体に強く作用するものが多いため、自己判断で減薬したり服用を止めたりすると、体調を悪化させるおそれがあります。
 安易な診断でうつ病にされている人が多くいるのは事実ですが、本当にうつ病で苦しんでいる人がいることもまた事実です。】

【企業が産業医に圧力をかけている?】

 誤解のないようにお断りしておきますが、私は「うつ状態は病気ではないのだから休職せずに働け」と言っているわけではありません。

 

 労働の現場には、たとえうつ病でなくても、明らかに休養が必要だと思われるようなうつ状態の人がいます。

 また、経過をみれば実はうつ病だったといううつ状態があることも十分承知しています。

 ただ私は、単に患者の話を聞くだけで、患者の言いなりになって診断書に「うつ状態」や「うつ病」と書く精神科の現状に疑問を呈しているのです。

 そして、それを書いた精神科医は、たった1枚の診断書が労働の現場にどのような混乱を引き起こしているかを理解していません。あるいは、知っていながら、見て見ぬふりをしています。

 このように書くと、みなさんの中には、私が産業医だから企業側に肩入れした主張をしていると思われる方がいるかもしれません。

 つまり、企業と産業医がグルになって、メンタルに問題を抱えた社員を無理やり働かせようとしているのではないか、と。

 あるいは、本書も、企業側の論理のプロパガンダとして、雇われ先の企業から金をもらって書かされているのでは、と勘繰られているかもしれません。

 確かに私はこれまで20社以上の企業で産業医を務めてきました。

 しかし、だからと言って企業側に肩入れして何かを主張したことはありませんし、今後もするつもりはありません。

 当然ながら、企業側の意向を「忖度【そんたく】」するつもりもありません。

 また、社員のメンタル評価に関して、企業側から何かしらの圧力をかけられたこともありません。

 むしろメンタルヘルス対策(社員の心の健康へのサポート)の重要性が叫ばれるこのご時世に、産業医にそのような圧力をかける企業はおそらく存在しないでしょう。

 はっきり言ってしまえば、企業側は社員のメンタル問題に過剰反応しています。

 精神科の診断書をもって来た社員に対しては、言葉ひとつかけるのにも過剰に注意を払い、私がそこまで気を使う必要はないとアドバイスしても「本当に大丈夫でしょうか? 安全配慮義務違反になりませんか?」と念を押されるほどです。

 ちなみに、「安全配慮義務」とは、企業等の使用者が労働者を心身ともに安全な環境で働くことができるよう配慮する義務のことです。

 その義務には、物理的に危険な作業への安全対策はもちろん、労働者のメンタルヘルス対策も含まれていると解釈されています。実際、労働者の精神衛生への配慮を怠ったことで、使用者に多額の賠償命令を命じた判例が過去にいくつもあります。

 ようするに、企業側は、精神科の診断書をもって来た社員に下手な対応をとって訴えられることを恐れているのです。

 だから、メンタルに問題を抱えた社員をまるで腫れ物に触るように扱い、診断書に休みが必要と書かれていれば、その通りに休みをとらせるよう最大限の努力を払っています。精神科の診断書という「印籠」に逆らおうものなら、それこそ『水戸黄門』の悪役のように、お上の裁きを受けて「成敗」されかねないからです。

 また、大半の企業において、精神科の診断書をもって来るほどメンタルに問題を抱えた社員は、全従業員に占める割合で見ればそれほど多くはありません。なので、企業側からすると、わざわざ産業医をコントロールして数名の社員のメンタル問題を無視するよりも、素直に精神科の診断書に服従したほうが圧倒的にリスクが小さく、ある意味で「楽」だと言えるのです。                      

(取り上げる事例は、個人を特定されないよう、実際の話を一部変更しています。もちろん、話を大げさにするなどの脚色は一切していません。また、事例に登場する人名はすべて仮名です。本記事は「あなたは“うつ”ではありません」を再構成しています)。

<次回は 対策を頑張る企業ほど、精神疾患の社員が多くなる皮肉 について紹介します>

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山田 博規

やまだ ひろき

1959年生まれ。1984年神戸大学医学部卒業後、住友病院内科勤務。1987年神戸大学医学部第三内科医員。1991年医学博士。2001年医療法人善仁会理事 大橋クリニック院長。2009年山田内科羽田腎クリニック院長。2011年日本医師会認定産業医に。2012年には、厚生労働省から労働衛生コンサルタントとして公認。その後、日本サムスン、オートバックス、浅草今半、千代田食品、日洋、海自検定協会、ジャパンディスプレイなど、さまざまな企業の産業医として、メンタルヘルスの問題を抱える多くの働く人々との面談を行っている。


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