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父には何もできなかった。だから母には全力で何かをしてあげたい

【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第二十一回

■5年という時間のせい 

 単純にそう思ったんです。自分でも驚くくらい、素直にそういう気持ちになれた。たぶん、この5年という時間のせいです。

 5年の間に、私の置かれているポジションも、年齢も変わりました。

 子供は大学を卒業して、親の手を離れた。会社ではそれなりの役職に就きましたが、現場から離れた管理職みたいなものです。

 5年前なら「親の介護のために仕事を辞めるなんて冗談だろ」と思っていたけど、「今なら会社の早期希望退職に応募する手もありかな」と思うタイミングになった。残りの人生をどう過ごすかを考える年齢になった。

 それにやっぱり、父親と母親では私の気持ちが違う。父親のときは「施設に預けるのは罪悪感を持つようなことじゃない。プロに任せるのは正しい選択だ」なんて言ってたくせに、いざ母親が同じ状況になると、どうしても抵抗がある。
 毎日好きなものも食べられないなんてとか、本人は家で過ごしたいはずだとか。父親のときみたいに「母さん、さっさと施設に入ろうよ」とは、とても思えなかった。
 これは私が息子だからなんでしょうか。娘なら、父にも母にも同じように接することができるんだろうか。よくわかりません。
 それと介護施設には、いい面もあれば、良くない面もある。当たり前の話ですけど、実際に親を入所させてみないと、具体的なことはわからない。これについては次回、お話しします。

 しかし、うまくできていますよね。まず父親の要介護を経験して、それから数年後に、母親の同じ事態に直面する。息子として、何かを試されている気になりました。

 おまけにほとんど同じタイミングで子供が手を離れ、仕事にひと区切りがつく。すべての出来事が同じ方向を指し示しているかのような、おまえが今やるべきことはひとつしかないだろうと天に言われて、目の前の海が割れて道ができたみたいな(笑)。

 これが、私が仕事を辞めて、母を自宅で介護し始めた経緯です。この選択が正しいかどうかは誰にもわからないし、正解もないでしょう。

 ただ、言えるのは、5年という時間の流れによって180度、考え方が変わったことと、父親と母親では違う感情が浮かんだということです。

 ひとりめの親にどういう対処をして、どんな感想を持ったか。どんな教訓を得たか。それによって、ふたりめの親への対処が変わるんだと思います。

 親はふたりいるんです。

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夕暮 二郎

ゆうぐれ じろう

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。



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