なぜ全文掲載すると、本の売上が伸びるのか?
本当にいい本は手元に置きたくなる『拝啓、本が売れません』特別編②
■「本当にいい本」とは
「加藤さんの言う、『本当にいい本』というのは、どういう本でしょうか?」
「2つあって、『面白くて役に立つ本』か、『面白さを極めた本』だと僕は考えています。単に役立つ情報だけを得るための本は、ネットで読んで必要な情報を入手してしまえば買う必要がなくなってしまう。けれど、売れる本は違う。売れる小説は『面白さを極めた本』なんです。それは、たとえネットで全文読めたとしても、本として手元にほしくなるはずです。先ほど話した『本がファングッズになるだろう』というのは、そういうところから来た考えです」
それに、と加藤さんはさらに付け足した。
「そもそも全文掲載したことが原因で売れなくなる本がもしあるとするなら、それは『出さなくていい本』だった可能性が高いのではないかと思います」
それは、まさにファングッズとしての本の在り方だ。加藤さんの話を聞きながら、私はそう思っていた。
「それと、全文掲載しても本の発売と同時に全部削除しちゃうパターンもよくないと思います」
加藤さんの言葉に、編集者であるワタナベ氏は渋い顔をした。
「うーん……本が出たらネットからは消したくなっちゃうなあ」
「その気持ちもよくわかります。けれど、一度ネットに掲載されたときに読者が――要するにファンがいたわけじゃないですか。その人達のはしごを外すことになるんですよね。たとえばTwitterなどで『これ面白い!』ってURL付きで紹介していたファンがいて、その人のツイートを見てウェブサイトに飛んでみたら、版元側の都合でコンテンツが削除されている。そうなると購買意欲もそがれるし、なんなら嫌いになることだってあると思いますよ。新規読者の獲得には決してつながりません」
新しい読者の開拓。それは今の私にとっての大きな課題だ。担当編集との打ち合わせの中でも「新規層の開拓のために~何か新しい方向性を~」という話題がしょっちゅう出てくる。実際に挑戦してみたりもした。
「作者がウェブ上に本拠地を持って、そこで連載していた作品が本になったとします。その本とウェブ上の本拠地や連載中の作品をリンクさせれば、それが販促にもなります。本を手に取った人が、『ここに行けばこの作者の他の作品が読めるぞ』と、本拠地に集まってきてくれる。アイデア次第で、自分の作品を広める方法はたくさんあるんです」〈…後編に続く〉