ドラゴンクエストと介護離職と遊び人
【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第二十四回
■「遊び人」のような、余裕のある介護人になりたかった。
それは「遊び人」である。
遊び人は、口笛を吹いて遊んでいるだけの職業で、仲間の戦闘でもちっとも役に立たない。ひとりで踊り始めたり、勝手なことばかりするので、効率を重んじる人からは無視されるキャラクターだ。
ところが遊び人だけは、あるレベルに達すれば、悟りの書なしに賢者へ転職ができる。先の見えない暗闇で、モンスターと戦いながら迷路をさまよわなくとも、踊ったり、笑ったりしながら、普通に日々を過ごしていれば賢者への道が開けるのだ。なんと意味深い設定だろう。
ドラクエの「遊び人」とは、介護における「ポジティヴ介護離職者」ではないだろうか。
男性でも女性でもいい。介護のために軽やかに仕事を辞め、ビジネス社会で戦う気もない。同僚からは重んじられていなかったかも知れないが、それでも常に前向きで、明るく口笛を吹き、介護を厳しい戦いなどと思うこともない。生き馬の目を抜くような世界で生きていくアビリティやスキルは低くても、周りを和ませて、笑顔にする能力だけは持っている。
ぼくも望むならば「遊び人」のような、余裕のある介護人になりたかった。そうすれば、父や母に対してもっと前向きな接し方ができただろうし、つらいときに口笛を吹いてあげることもできただろう。
しょせんは賢者になれなかった、はぐれ息子の繰り言である。自分は介護生活を通して、親のHPを回復させる呪文を一度くらいは使えたのだろうか。
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