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『新潮45』廃刊の真相と小川榮太郎氏の正体とは(前編)

出版業界に衝撃!ネットの炎上が止まらない理由

■旧仮名バカ

 小川榮太郎という名前を初めて聞いたのは5年くらい前のことだ。当時私は産経新聞に連載を持っていたので、『正論』や『WiLL』といった雑誌の人たちとのおつきあいもあった。 こうした界隈の連中からさえ、自己評価が異常に高い変な男ががいるという話が伝わってきた。宗教団体の生長の家や統一協会と関係があるという話は聞いたが、特に興味はなかった。

 しかし、フェイスブックに小川が書いたオバカ文章が流れてきたりするので、注目している人もいたのだろう。

 くだらない床屋政談をブログに書くときでも、私は政局に関わっている暇などなく、本来なら人生で残された時間を使ってブルックナーの研究をしなければならないはずなのだが……みたいなフリをいちいちつけるので、それが一部で笑いものになっていた。

 幼稚な文章を旧仮名遣いと、過去の偉人の名前で飾り立てるので、どうしてもこじらせた中学生が書いたポエムのようなものになる。恥かしくて正視できる文章ではないが、そこからわかるのは自分が大好きということだ。自分のことが好きで好きでたまらない。それで鼻息も荒くなっていく。

 小川の便所の落書きに注目が集まった理由も書いていることの痛々しさ以上に、本人がそれを「高尚な文章」だと思い込んでいるところが痛々しいからだろう。

 小川の旧仮名遣いの文章を現代仮名遣いに直すと、小学生レベルの文章だったという話を数年前に某雑誌の編集者から聞いて大笑いしたが、出版業界でも、小川がいつかなにかをやらかすのではないかと思われていたようだ。

 小川は2017年にフジサンケイグループが主催する「正論新風賞」を三浦瑠麗と一緒に受賞している。その理由は「国語の空虚化や文学の衰退など日本人の核となる精神の喪失が最も深刻な危機と訴える姿勢」が評価されたからだという。

 ちなみにイスラム研究者で、東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵によると、売れ筋の国際政治学者たちに「『正論新風賞くれる』って言われたらどうします?」と聞くと、皆が嫌な顔をしたそうな。池内は今回の件についても「正論新風賞で勘違いした小物に書かせるからいけない」とツイートしていたが、日本人の核となる精神の喪失はいよいよ深刻だ。

 小川は『小林秀雄の後の二十一章』なる本を出し、自分のブログで「小林秀雄の後を継ぐ評論集といふ意味です。小林秀雄が達成した高みを、思考の手続きと文体において、藝格において、継承、いや凌駕する――それを宣言した本です」と述べている。定価5940円だし、書店が店頭に並べるような本ではない。自費出版なのか、他の目的があるのかは知らないが、そりゃ、小林秀雄全集を出している新潮社の文芸書編集部も怒るわな。

「小物界の大物」という言葉があるが、小川の場合、小物界の自称大物。小物界においてですら、自称でしかない。安倍のヨイショ本をアルバイトで書いたら大金が入ってきたので、のぼせあがってしまい、自分を「伝統保守主義者」「文豪」と思い込むようになった。普段は『正論』『WiLL』『Hanada 』といった特殊な雑誌に妄想を連ねていたので、特に問題になることはなかった。『ムー』の記事に対し、「地底人などいるはずがない」などと批判する奴はいないだろう。

 しかし、今回は『新潮45』という一般誌にひょっこり登場したので、当然問題になったというだけの話だ。それで、最終的にワイドショーでも報道され、お茶の間にもバカがばれた。小川の正体が世の中に伝わったという点においては、今回の件も意味がないとは言い切れない。

(敬称略、後編に続く)

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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