謎の蝶「アサギマダラ」に魅せられた男
海を渡る謎の蝶の正体とは。
■「マーキング」に基づく研究
ここで栗田氏のプロフィールについても触れておこう。
栗田氏は東京大学の数学科を卒業後、同大学の医学部も卒業し、アメリカに留学。その後、東大病院で内科医師として長年勤務を続けたという。
その傍ら、速読法など独自の能力開発法を考案し、自ら主催する教室などを通じて指導にもあたった。1990年代に大流行した「指回し体操」の考案者としても知られる。そして現在は、大学(群馬パース大学)の学長という肩書が加わった。
そんな栗田氏が、多忙な日々の合間を縫って、力を傾けているのがアサギマダラの上記の「マーキング」に基づく研究である。一旦捕獲してマーキングしたのちに飛ばされた蝶は、離れた地で再捕獲されることによって移動距離がつかめる。栗田氏がマーキングした蝶だけでも、1000例以上が遠隔の地で再捕獲されているという。
ほんの一例を挙げれば、福島県耶麻郡北塩原でマーキングした蝶が、小笠原諸島父島(1199キロ)、五島列島中通島(1131キロ)、日本最西端の与那国島(2194キロ)、台湾の金山獅子頭山(2231キロ)などで再捕獲されている。
さらに驚かされるのは、栗田氏が、自分がマーキングした蝶と何千キロも隔てた地で、自ら再捕獲しているという事実だ。栗田氏はこう述べる。
「本州でマーキングをして放した蝶に、奄美大島と喜界島で再会すること」。
すなわち「1000㎞を飛んだ蝶を自己再捕獲すること」を目指したのです。
具体的には、夏場に本州中部のどこかでマーキングをすることと、秋の適切な時期に、奄美諸島の適切な場所に行き、夏に放した蝶に出会うことを目標とするのです。
その結果、2004年には、喜界島と奄美諸島での自己再捕獲を達成できました。さらに、あらかじめ定めた各地での自己再捕獲も次々と行なうことができるようになりました。(前掲書)
すなわち「1000㎞を飛んだ蝶を自己再捕獲すること」を目指したのです。
具体的には、夏場に本州中部のどこかでマーキングをすることと、秋の適切な時期に、奄美諸島の適切な場所に行き、夏に放した蝶に出会うことを目標とするのです。
その結果、2004年には、喜界島と奄美諸島での自己再捕獲を達成できました。さらに、あらかじめ定めた各地での自己再捕獲も次々と行なうことができるようになりました。(前掲書)
「あらかじめ定めた各地での自己再捕獲も次々と行なうことができるようになりました」と、さらっと書いてあるが、そんなことが確率的に果たして起こりうるのだろうか。誰もが、疑問に思うに違いない。
実は、栗田氏が自己再捕獲にこだわる理由も、まさにこの点にある。
栗田氏は、前掲書『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか』の結びの部分で、次のように語っている。少し長くなるが引用させていただこう。
大事なことは、物質の世界が物理学のさまざまな法則で成立しているように、心の世界にも法則があるのではないかということです。
私がアサギマダラをマーキングしながら10年近く行ってきたのは「心を探る旅」でした。それは、人間にもアサギマダラにも通用するような、生命すべてにとっての「心の世界の法則を探る旅」だったのです。
そこには大きな謎と不思議があります。
「移動生物の謎はそこまで行って初めて解けるものではないか」というのが本書における私の結論です。
そう思う理由は、アサギマダラはいつも私の「あり得ないような予想」に対して、きっちりと、それが「あり得る」という答えを示し続けてくれたからです。
これはアサギマダラが「確率に従う世界の中にいながら、いつも確率を超えようとして生きている存在である」ことを示唆していると感じられたのです。
最後に私が提起したいのは、「確率に従いながら確率を超えようとする性質」が、実は地球上のすべての生き物に共通な特徴なのではないかという問いかけです。
私がアサギマダラをマーキングしながら10年近く行ってきたのは「心を探る旅」でした。それは、人間にもアサギマダラにも通用するような、生命すべてにとっての「心の世界の法則を探る旅」だったのです。
そこには大きな謎と不思議があります。
「移動生物の謎はそこまで行って初めて解けるものではないか」というのが本書における私の結論です。
そう思う理由は、アサギマダラはいつも私の「あり得ないような予想」に対して、きっちりと、それが「あり得る」という答えを示し続けてくれたからです。
これはアサギマダラが「確率に従う世界の中にいながら、いつも確率を超えようとして生きている存在である」ことを示唆していると感じられたのです。
最後に私が提起したいのは、「確率に従いながら確率を超えようとする性質」が、実は地球上のすべての生き物に共通な特徴なのではないかという問いかけです。