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III号戦車の派生型

精強ドイツ装甲部隊を支えた傑作戦車④

⑤潜水戦車

 幻に終わったイギリス侵攻作戦“ゼーレーヴェ”に向けて既存車から改造された。車体各部に完全水密処置を施し、給排気用のシュノーケル・ホースにより水深15mまでの海底を走行可能。一部のIV号戦車も同作戦に投入すべく同様の改造が施されたが、結局、作戦自体が中止となったため、両潜水戦車ともソ連侵攻の緒戦における渡河作戦で実戦使用された。

⑥III号突撃砲

 このように、III号戦車からはさまざまな派生型が誕生したが、なんといっても最良、かつ最多生産の派生型は突撃砲である。
 突撃砲は当初、歩兵への近接火力支援を目的とした砲兵用車両として開発された。
 ところが、カーゼマット式固定戦闘室に限定旋回で砲を搭載した突撃砲は、構造的に砲塔装備砲のサイズの上限に達したIII号戦車に、より強力な砲を搭載する手段として最適だった。何しろ、III号戦車の砲塔には搭載できなかった48口径75mm戦車砲が搭載できたので、IV号戦車と同等の火力が得られたのである。
 さらに、105mm榴弾砲(10.5cm StuH 42)を搭載した派生型の10.5cm突撃榴弾砲42型も造られている(2018年07月04日配信:第二次大戦の全期間を通じて高い評価を受けた「III号突撃砲」:参照)。

 

⑦SU-76i自走砲

 これはソ連が生み出した独ソ折衷の自走砲(実態は突撃砲)で、鹵獲したIII号戦車の砲塔を撤去し、代わりにカーゼマット式固定戦闘室を接合。そこにT34/76に搭載されている76.2mm戦車砲F-34を自走砲用に改修したS-1を搭載した車両で、約200両が改造されてソ連軍により実戦で用いられた。

 このように、ドイツ軍の重要な戦車のひとつとして活躍したIII号戦車は、戦車型約5800両、突撃砲約10500両が生産された。ちなみに後者の数字は、第二次大戦中にドイツでもっとも多く生産された装軌式装甲戦闘車両となる。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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