世界を驚かせ続ける「木造自転車」
東京名品図鑑第8回 「SANOMAGIC」の「木造自転車」
二百数十年続く船大工の技術と誇り
貯木場や製材所から漂う木の香りが、環境省の「かおり風景100選」にも選ばれた江東区新木場。その木材団地の一画に、さらに濃厚な場所があった。看板には、「SANOMAGIC」という銘が刻まれている。江戸時代から二百数十年も続く船大工の家に生まれた佐野末四郎さんの工房だ。
小学校の卒業文集に書いた夢は「世界一の船大工になる」というものだった。最初に船を作ったのは、小学5年の夏休みのこと。ベニヤ板で小型ボートを作り、東京湾で釣りを楽しんだ。
1971年、13歳になると父から船体設計を本格的に習い始めて、15歳で外洋ヨットの建造に着手。3年かけて独力で完成させたという。10代の少年によって生み出された船は、米国の木造船専門誌『Wooden Boat』に日本の木造船として初めて紹介された。1984年に進水させた船は、同誌が特集を組んで「SANOMAGIC」と称賛するほどのものになった。
マホガニーを使ったレース仕様のバイク
環境と才能と努力の最高値を集めたかのような佐野さんが、自転車の製作にも乗り出したのは2007年。日本が誇るべき造船技術をベースに、木造船にとって最高の素材とされるマホガニーを使って、レース仕様のバイクを造りはじめたのだ。マホガニーを積層する技術が活かされた中空フレームは、剛性と軽量性に優れる。
それだけではなく、「マホガニー積層体フレームならではの弾性によって、ベダルを踏む力の一部を推進力に変換することができるんですよ」と佐野さん。まるで追い風の中で走っているような感覚が得られるそうだ。実際、総重量は7㎏台で、レース用バイクに負けないスピードが出せる。これまでに筑波8時間耐久レースなどで好成績を収めて、実力を証明している。
世界中でサプライズを起こした佐野作品
ドイツで行われる世界最大の自転車ショー「ユーロバイク」に出展した際には、質問攻めでもみくちゃになり、試乗した人からはガッツポーズの祝福を受けた。さらには、イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館で開催された企画展「Power of Making」の出品依頼にも応えたりと、佐野さんの作品は世界中でサプライズを起こしている。これには、船大工の先祖もさぞかし驚いていることだろう。
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