子どもたちの “嫌がらせ” に耐える教師たち 生徒が放った言葉に唖然…【西岡正樹】
子たちはなぜ不満を溜め込んでしまったのか?
「小中高校生の暴力行為、過去最多の9万5千件 20年前の2.8倍に」朝日新聞(2023年10月4日)によれば、「文部科学省が実施する「児童生徒の問題行動・不登校調査」の2022年度の結果が判明した。国公私立の小中高生による暴力行為は計9万5426件。前年度から24・8%増え、過去最多となった。近年は増加幅が大きく、20年前の2・8倍となった」と。
誰かが伝えなければならないことがある。学校現場で起こっている真実のホラー話だ。子どもが起こす理不尽な問題行動を学校や教師の責任にして、公教育現場がおざなりにされている現状というのはいったい何なのだろうか。「いま学校で起きていること」に向き合わないこの国や社会というのは一体何なのか? 小学校教員歴40年の西岡正樹氏が語る「いま学校で起きている、壊れゆく子どもと教師の関係性」パート1(小学校低学年)に続きパート2(小学校高学年)を公開する。学校現場はまさに大人社会の縮図だ。
◾️夏休み後、子どもたちとの関係が一気に崩れてしまった・・・
学年末、教室の中で毎日のように繰り返される子どもたちの理不尽な言動に、Y教諭は耐えていた。しかし、自分の中にある我慢の限界線をすでに越えているのではないだろうかと、感じることが時々あるのだ。Y教諭が、そのことを初めて感じたのは教室ではなかった。年が変わった1月、日常を一旦忘れるために江ノ島に出かけた時のことだ。
年が明けた1月の中旬。休日の朝、少し早めの江ノ電は予想以上に人が少ない。今日は子どもに責められ、授業以外の雑務に追われる厳しい状況から逃れるために来た。窓の外は、人々が行きかっているが、その人たちと自分は何の関りもないのだと思うと気が楽だ。「今日は良い息抜きができそうだ」そう思った、まさに、その時だった。
「わーっ、江ノ電だ」
どこからか、子どもの声が聞こえた。
「えっ、どこにいる」その瞬間、Y教諭の体と心に緊張を強いる電流が走った。自分の心臓の鼓動が聴こえてくる。体と心が右往左往しているのが、自分でも分かった。
「どうしよう」「落ち着け、落ち着け」
Y教諭は必死に自分を落ち着かせた・・・だが「自分はもう限界かもしれない」・・・そう思っている自分がいることに気が付いた。
しかし、強靭な「耐える力」でY教諭は残り3か月をやりきった。1年間をなんとか乗り切ったのだ。そして、自分のクラスの子どもたち全員を6年生に進級させることができた。Y教諭の1年間の大変さを知っている私は、この1年間を振り返ってもらうには酷かなと思っていたが、Y教諭の「大丈夫です」という言葉を信じて、「昨年度を振り返って、どのように思っているのだろうか」その心中を訊いてみた。
すると
「『辛かった』というひと言です」
とても短い言葉が返ってきた。そしてさらに、「辛かった」の中にある「辛さ」は、日々の積み重ねの中で生まれてきたものであり、それに気が付かなかったのは「自分の至らなさだ」と、Y教諭は自らを戒める言葉を付け加えた。果たして、Y教諭の過酷な1年間は「自分の至らなさ」だけの問題だったのだろうか。
夏休み前まで、Y教諭は自分と子どもたちの関係が悪いという認識はなかった。一部の子どもの問題行動やそれに対する不満が何人かの子どもたちにあるのは分かっていたが、それが直接自分に向けられていないので、「自分との関係が悪い」という認識には至っていなかった。
ところが、夏休み後、子どもたちとの関係が一気に崩れていってしまったのだ。それは、地下水が溜まりに溜まると、雨が降っていないのに土砂崩れが起きるのと同じように、見えないところで溜まっていた子どもたちの不満が一気に表面に出てきたような瞬間だった。
「気が付いた時には関係が崩れていました。正直なところ、その変化は私には見えていませんでした」
Y教諭の言葉に戸惑いの気持ちが見えた。