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誰も教えてくれない、「グローバル化」の本質

現在観測 第34回

◆グローバル化とは価値の相対化

 前章で述べた国ごとの捉え方を排除すると、グローバル化の中では「ヒト・モノ・カネが国境を越えて行き来する」、そしてその度合いと関係する国や地域が、国際化と言われた時代に比べて範囲も度合いも大きくなるとした場合、どのような事が起こるのか私個人の身近な体験を例に述べたいと思う。 

ケンブリッジ大学バレーボール部(前列中央が著者)

 ケンブリッジ大学の大学院に留学していた際、僕はバレーボール部に所属していた。日本でも、中学から始め、高校、大学、クラブチームとずっとプレイしていた。バレーボールを通じてたくさんの仲間が作る事ができたので、ケンブリッジ大学でも仲間づくりのために加入した。4年間プレイしたが、大学の特性上、全大陸の人間と本気でバレーボールをできた事は人生において大きな財産となった。
 オックスフォードとの定期戦(Varsity Matchという)の他、シーズン中は毎週のように車で遠征先に向かい試合をしていた。ある日、試合を終えて帰る長い道のりで、運転をしていた僕の隣にはドイツ人のロバート、後ろにはケニア人のトビーとシンガポール人のCX(あだ名)がいた。気分転換が必要だったため、それぞれの国の話をする事にした。トビーは思う所多いようで、東アフリカの国々の成り立ちから宗教、政治に渡るまで多岐に渡る話をしてくれた。その中で「ケニアでは民主主義が発達していないから汚職が横行し、国がなかなか発展しない。」と言う言葉が出てきた。「うんうん」と僕とロバートは聞いていたのだが、CXは「そんな民主主義なんてやろうとするから国の発展が遅いんだ。一人の超スマートな人間が政治を行った方が国は発展する!」と言い出した。「戦後の発展のためにまず、民主主義が導入された」日本人の感覚からすれば、どこか時代錯誤で危険な香りがする言葉だが、シンガポールは実際にケンブリッジ大を卒業したリー・クアンユーのいわゆる開発独裁によって発展した。恐らく、CXがいなければ最初のトビーの話に反対するような意見は出なかっただろう。その後、トビーとCXは議論を重ねたが決着はつかない。どちらの意見もそれぞれの状況で「正しい」のだ。 

 一つの国で常識や重要だと思われる価値観は、比較対象がない限りある種、絶対的なものになってしまう。しかし、前提や状況が全く異なるものとの比較の対象が現れた場合、それら絶対的な価値観の中で蓋をされていた「当たり前」も相対化され、「気付き」を与えてくれる。約5年間、日本社会である程度経験を積んで、留学した事により相対化を良いバランスで行う事ができた(断っておくが、私は海外との結びつきの強いキャリアが無条件で国内のみのキャリアより優れているとは決して思わない)。

次のページ最後に求められるのは、ローカル化

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岡本 尚也

おかもと なおや

物理学者・社会起業家

1984年鹿児島県生まれ。2008年慶応大学理工学部物理情報工学科卒、2010年同大大学院基礎理工学専攻修了、2011年より(公財)船井情報科学振興財団奨学生としてケンブリッジ大学物理学部キャヴェンディッシュ研究所博士課程へ留学。在学中、筆頭著者としてNature Materials等、世界トップジャーナルに論文が掲載される。2014年博士号取得後、オックスフォード大学近代日本学部Nissan Institute of Japanese Studiesにて近代日本社会の研究、特に教育社会学を学んだ。

現在は地元鹿児島に戻り、『地域を起点に世界につながる「教育」と「事業」をつくる』NPO法人グローカルアカデミーを設立し、教育や研究活動、コンサルタント業務を行っている。

東洋経済オンラインにて「オックスフォード×ケンブリッジ 英国流創造と学びの技法」を連載中。2016年秋に新興出版社啓林館より「課題研究メソッド(仮題)」を出版予定。


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