ジャニーズ性加害、日本保守党、維新の会……日本の病は根の部分でつながっている【適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第49回
■ジャニーズタブーと作家タブー
喜多川が増長した理由はテレビメディアが「ジャニーズタブー」を恐れてきたからだろう。喜多川を批判すればジャニーズ事務所と仕事ができなくなると。それと同じように出版界には「作家タブー」が存在する。売れている作家を抱えている出版社では、そこが出している雑誌や本などでその作家を批判することはできないことがある。具体的に言えば、私は自著や記事で百田尚樹を批判すると、その部分は削除してほしいと編集者から依頼が来たりする。
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百田の言葉は絶望的に軽い。日本保守党なる新党をたちあげたそうだが、保守の対極にある安倍晋三を礼讃していた時点で、保守思想を理解しているとは思えない。ネットでも指摘されていたが、「私はリベラルでも保守でもないわ」「言うとくが、私は自ら保守と名乗ったことはない」「敢えて言えば保守でもない」などと繰り返しておきながら、それを指摘されると、「いつ保守じゃないと言った?」とキレる。こういう変なエセ保守みたいなものが定期的に湧いてくるのは、わが国においては近代の構造がほとんど理解されていないからである。だから近代理念を警戒する姿勢としての保守もまたほとんど理解されていない。福沢諭吉は「保守の文字は復古の義に解すべからず」とも言ったが、保守と復古の区別もついていないチンパンジーが集まっているのが、自称保守向けのカルト月刊誌である。
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百田による“事故本”『日本国紀』は、わが国の歴史を歪め、泥を塗ってきた。事実誤認や無断引用の嵐。織田信長は「一向一揆鎮圧の際も女性や子供を含む2万人を皆殺しにしている。これは日本の歴史上かつてない大虐殺である」と述べる一方で、「日本の歴史には、大虐殺もなければ宗教による悲惨な争いもない」。フランシスコ・ザビエルとルイス・フロイスを間違えていた件に関しては「どっちにしても外人や」。この類のエセ保守、ビジウヨの最大の特徴は日本語、および日本を心底バカにしているところにある。
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百田は「僕の若い頃、ビジネスホテルには100円入れるとエロビデオが見れる機械があった。その100円を入れる穴に針金を突っ込んで上手く操作すると、タダで見れた。だから出張に行くときは針金は必需品だった」とツイートしていたが、社会のルールを守ることができない人間は、政治に関わるべきではない。
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今回、ジャニー喜多川の悪事が追及されるようになったのは、イギリスの公共放送「BBC」が邦題「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」と題するドキュメンタリーを放送したからである。つまり、国内に自浄作用はない。一番の問題は、目の前にある腐った現実を直視せず、メディアがつくりあげた生温かい世界の中で暮らしている人たちなのかもしれない。福沢諭吉は「国の貧弱は必ずしも政体のいたすところにあらず。その罪、多くは国民の不徳にあり」とも言った。
文:適菜収
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