島田雅彦 独占インタビュー 最終回
食えない時代。酒場に救われることが多々あった。
食えないことにおいてその代名詞とも言える「詩人」に学んだリアルなサバイバル・テクニック
小説家・島田雅彦が語るこのふざけた世相を生き抜くためのサバイバル・テクニック 最終回
最終回は、ガラリとかわって島田雅彦の愛する「酒」について訊いてみた。「詩人に学ぶ 財布に優しい酒の飲み方」とは?
――先生は、いままでの長い飲酒歴の中で、この人の飲み方を学ぼうとか、この飲み方がいいなと思ったりする瞬間というのはありますか。
島田 行きつけの店で交流のあった亡き先輩たちですね。それぞれに非常に個性豊かで、それなりの美意識は持っていたのかなとは思います。
たとえば、その方は詩人なんですが、詩だけでは食えないから大学の先生もやっていまして、その人が割とダンディだった。
ふらっと店にやって来てカンパリロックかなんか飲んでいて。なんか話しかけてくるんだけど、面白い話をよくしていました。
あと、もうひとりも詩人なんですけど……基本、詩人というのは大学ででも教えていない限り貧乏なんですが、金がないのにどうやって飲むかという知恵がすごいんです。
だから、以前なら、その場に編集者がいたらば、すぐ知り合いになって、奢ってもらったりして、あとはとにかく女の人にたかるのが上手でしたね。
自分のパトロンになってくれるような女性を、それこそ未亡人なども含めて見つけてくるのが、すごくうまくて。
田村隆一という詩人ですけど。あの人は自分の家屋敷に住んでいる女性の愛人のようなポジションに収まるわけですよ。
全部で5回結婚していてね。別れるたびに慰謝料を払うのではなく払ってもらうようなタイプの人だったから、お金がなくなるとなんとか「より」を戻さないと生活が困窮してしまう。それで、いろいろとテクニックを駆使していたそうです。
私が聞いた話では、仲直りの一つの小道具として、鳥獣店に行って一番安い鳥を買うんだそうです。十姉妹かなんかをつがいで。
それを一番安い籠に入れて持っていって、「ほら、仲睦まじいよね、僕たちもこの鳥みたいになればいいよね」とか言いながら、よりを戻してもらうんだそうで……。
――なるほど、そんな小さな生き物を連れてこられたら、むげに追い返すわけにもいきませんからね。いい話を聞きました。
島田 あとその田村隆一の弟子でもあった正津勉という詩人。これもやっぱり食えないので生活費をひねり出すために、すごく熱心に奨学金とか海外派遣のイベントを探し当てて、半年とか一年をアゴアシ付きで滞在できるようにしていましたね。
日本では現代詩人の地位は非常に低いけれども、ヨーロッパとかアメリカでは、詩人で日本でも詩集を何冊も出しているということになれば、これはかなりのエリートで、尊敬される一角の人物として扱ってもらえますから。
文学研究とかしている、若い女子学生をうまく騙せるらしい。
――やはりそこですか(笑)。
島田 女子学生と付き合って、「日本から持ってきた服がなくなっちゃった」とかなんとか言いながら、女物のお古とかをもらって着たりして。
そろそろ日本に帰らなきゃいけないってときになると、当然、女子学生も日本に行きたがったりする。
ところが、いざ、その女の子が来ると、日本での生活ぶりを見て全員幻滅して去って行くらしい(笑)。
それで、日本での正体は見せないようにしないといけないという、そういう話も聞きました。
このインタビューの前提にあったのは、島田雅彦氏が食えなかった時代の話である。芥川賞最多落選記録(6回)を持つ氏であるが、さすがに当時の落ち込みは尋常ではなかったであろう。
現在は芥川賞選考委員に名を連ねる氏。酒というよりは、酒場に救われたことも多々あったと言う。機会があれば、酒にまつわる話に絞ってお伝えできればとも思う<編集部>
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