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リスキリングを追いかけて「使い捨て人材」にならないように、知っておくべきこと《後編》【大竹稽】

~「どんどん増やす」思考の人間はいずれ破裂する〜


東大理三に入学するも現代医学に疑問に抱き退学、文転し再び東大に入る。東大大学院博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、現在「てらてつ(お寺で哲学する)」を主宰する異色の哲学者・大竹稽氏。深く迷い、紆余曲折しながら生きることを全肯定する氏が、今回は「リスキリング」なる言葉に踊らされるビジネスパーソンに警鐘を鳴らす。【後編】


写真:PIXTA

 

◾️DXに「キャッチアップせよ!」と言う輩

 

 「リスキリングとは、新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する、獲得させること」

 内閣府のリスキリング政策の資料にある一文です。

 リスキリングは、デジタル化への対応と不可分です。内閣府も、その重要性を「デジタル化への対応が不可欠となる中で、企業は、新たな人材確保のみならず、これらの環境変化に対応できるように社内の人材の学び直し、特にリスキリングの取組を進めることも重要である」と説いていますね。

 とはいえ、自発的にリスキリングに挑んでいる人は多くなく、むしろ「仕事上の必要によるものと回答した者の割合が約34割と最も大きく、必要に迫られた行動である」と内閣府も分析しています。

 まぁ当然でしょう。DX、いわゆるデジタル・トランスフォーメーションという難題が登場したのはここ数年の話しであって、多くのビジネスマンにとっては寝耳に水の事態のはず。だから動きは鈍い。そんな中、利に聡い輩が「キャッチアップせよ!」と煽ってきます。そんな輩に(利益の都合上かもしれませんが)、リスキリングの行先や弊害など、感知するようなセンスがあるはずないのです。

 「デジタル・トランスフォーメーションへのキャッチアップ」を起点にしていることが、そもそも問題なのです。一体、人類の何割がDXの全容を把握しているでしょう? 全容には、大きな流れに加えて細部も含まれます。スマートフォンが好例でしょう。私を含めた多くの一般人にも、すでにスマホの流れは把握できないでしょう。そして製作者側の専門家たちでも、あらゆる細部を、一人でどこまで理解できているでしょう。

 デジタルと付き合う要点は、「キャッチ・アップ」ではないのです。私たちが使える適切なところにまでサイズダウンしていく、これが要点なのです。私たちには生身があります。デジタルと違って生身の存在です。ですから、デジタルともほどほどに、身の程に使えればいいのです。そのためには、「持つ」「増やす」よりも、「持たない」「減らす」ことが重要になってくるのです。

 アプリやメッセージが充満し、常時フル稼働状態になったスマホたちは、「減らす」への好い示唆になるでしょう。

次のページ「キャッチアップ」に脳を囚われてしまっている現代人への警告

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大竹稽

おおたけ けい

教育者、哲学者

株式会社禅鯤館 代表取締役
産経子供ニュース編集顧問

 

1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年には東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、共生問題と死の問題に挑んでいる。

 

専門はサルトル、ガブリエル・マルセルら実存の思想家、モンテーニュやパスカルらのモラリスト。2015年に東京港区三田の龍源寺で「てらてつ(お寺で哲学する)」を開始。現在は、てらてつ活動を全国に展開している。小学生からお年寄りまで老若男女が一堂に会して、肩書き不問の対話ができる場として好評を博している。著書に『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』(共著:中央経済社)、『60分でわかるカミュのペスト』(あさ出版)、『自分で考える力を育てる10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)など。編訳書に『超訳モンテーニュ 中庸の教え』『賢者の智慧の書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など。僧侶と共同で作った本として『つながる仏教』(ポプラ社)、『めんどうな心が楽になる』(牧野出版)など。哲学の活動は、三田や鎌倉での哲学教室(てらてつ)、教育者としての活動は学習塾(思考塾)や、三田や鎌倉での作文教室(作文堂)。

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