リスキリングを追いかけて「使い捨て人材」にならないように、知っておくべきこと《後編》【大竹稽】
~「どんどん増やす」思考の人間はいずれ破裂する〜
東大理三に入学するも現代医学に疑問に抱き退学、文転し再び東大に入る。東大大学院博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、現在「てらてつ(お寺で哲学する)」を主宰する異色の哲学者・大竹稽氏。深く迷い、紆余曲折しながら生きることを全肯定する氏が、今回は「リスキリング」なる言葉に踊らされるビジネスパーソンに警鐘を鳴らす。【後編】
◾️DXに「キャッチアップせよ!」と言う輩
「リスキリングとは、新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する、獲得させること」
内閣府のリスキリング政策の資料にある一文です。
リスキリングは、デジタル化への対応と不可分です。内閣府も、その重要性を「デジタル化への対応が不可欠となる中で、企業は、新たな人材確保のみならず、これらの環境変化に対応できるように社内の人材の学び直し、特にリスキリングの取組を進めることも重要である」と説いていますね。
とはいえ、自発的にリスキリングに挑んでいる人は多くなく、むしろ「仕事上の必要によるものと回答した者の割合が約3〜4割と最も大きく、必要に迫られた行動である」と内閣府も分析しています。
まぁ当然でしょう。DX、いわゆるデジタル・トランスフォーメーションという難題が登場したのはここ数年の話しであって、多くのビジネスマンにとっては寝耳に水の事態のはず。だから動きは鈍い。そんな中、利に聡い輩が「キャッチアップせよ!」と煽ってきます。そんな輩に(利益の都合上かもしれませんが)、リスキリングの行先や弊害など、感知するようなセンスがあるはずないのです。
「デジタル・トランスフォーメーションへのキャッチアップ」を起点にしていることが、そもそも問題なのです。一体、人類の何割がDXの全容を把握しているでしょう? 全容には、大きな流れに加えて細部も含まれます。スマートフォンが好例でしょう。私を含めた多くの一般人にも、すでにスマホの流れは把握できないでしょう。そして製作者側の専門家たちでも、あらゆる細部を、一人でどこまで理解できているでしょう。
デジタルと付き合う要点は、「キャッチ・アップ」ではないのです。私たちが使える適切なところにまでサイズダウンしていく、これが要点なのです。私たちには生身があります。デジタルと違って生身の存在です。ですから、デジタルともほどほどに、身の程に使えればいいのです。そのためには、「持つ」「増やす」よりも、「持たない」「減らす」ことが重要になってくるのです。
アプリやメッセージが充満し、常時フル稼働状態になったスマホたちは、「減らす」への好い示唆になるでしょう。