冷やし中華とはまったく別物! 夏の新風物詩「冷やしラーメン」とは?
現在観測 第40回
しかし、そんな人にこそ言いたい……「夏こそラーメンを食べよ!!!」
冷やし中華文化だけではない、夏にしか食べられないラーメンの魅力について、「ラーメン官僚」の異名を持つ田中一明さんにご寄稿いただきました。
「夏は暑過ぎて、到底ラーメンを食べる気がしない。」
衰えを知らぬかのような強烈な太陽光によって、路上に陽炎が揺らめく日本の夏。そんな猛暑にさらされた人々の口から、あたかも決まり文句であるかのように呟かれるのが、この言葉だ。
さらに一歩進んで、「夏は、ラーメンを食べるべき季節じゃない。」とまでおっしゃる人も少なくない。
確かに、10年ほど前までは、そんな発言にもある程度の説得力があっただろう。
しかしながら、敢えて、先に結論から申し上げよう。2016年現在、夏にラーメンから遠ざかる行為は、ラーメンの魅力の大部分から目を背けることに他ならない。
ラーメンマニアの中には、夏こそラーメンの季節だと公言してはばからない輩もいるほどだ。
「いや、それは適当な理由をつけて、年中、ラーメンを食べる行為を正当化しているだけじゃないのか?」。そのように思われる方もいらっしゃるだろう。
確かに、私をはじめとするラーメンマニアが、何らかの理由をつけて、ともすればラーメンを食べようとする傾向があることは否定しない。が、ここは声を大にして主張したい。
「現在においては、夏こそ最もラーメンが面白い季節。これは紛れもない事実だ!」と。
以下、その理由を述べよう。
●夏ラーメンの風物詩「冷やしラーメン」の登場!
一般的にはまだ、あまり浸透していないきらいはあるが、ここ数年の間で提供店が爆発的に増加し、ラーメンマニアの間では「夏ならではのお楽しみ」として、認知されつつある新たなラーメンジャンルがある。
それが、「冷やしラーメン」だ。
「冷やしラーメン」とは、麺のみならず、スープも冷やされた状態で提供されるラーメンの総称。
一般的に「冷やし中華」と呼ばれる、冷水で締めた中華麺の上に、キュウリ、ハムの千切り、真紅のトマト、色鮮やかな錦糸卵などを盛り付け、酢の酸味が利いた醤油ダレを掛けていただく麺料理も、広義では「冷やしラーメン」に含まれるが、「冷やしラーメン」の範囲は、「冷やし中華」のみにとどまるものではない。
中華麺とスープの両者が、共に冷やされた状態で提供される、あらゆる麺料理が「冷やしラーメン」と定義付けられる。
ちなみに、「冷やし中華」以外の「冷やしラーメン」の元祖は、山形県の名店『栄屋本店』が、常連客の「暑い夏でも美味しく食べられるよう、スープを冷たくしたラーメンを作ってほしい」との要望に応え、1952年に開発したもの。他方、「冷やし中華」は、1933年、神田神保町の老舗である『揚子江菜館』が考案したメニューであり、「冷やし中華」の方が、それ以外の「冷やしラーメン」より20年も早く世に出ている。(余談になるが、いずれのメニューも現役である。)
と、「冷やしラーメン」と「冷やし中華」の関係性について語り始めれば、それこそキリがなくなってしまうのだが、今回のテーマは両者の関係性を論ずることではないので、この程度にとどめたい。
いずれにせよ、「冷やしラーメン」の誕生から半世紀以上の歳月を経て「夏は暑いんだから、スープを冷やしてしまえばいいじゃないか。」という発想が、ようやく全国に普及。
今では、夏季限定メニューとして「冷やしラーメン」を提供する店が、星の数ほど存在する状況だ。
もちろん、「冷やしラーメン」は、麺はおろか、スープもキンキンに冷やした状態で提供されるため、夏でも食べられる。
それどころか、暑ければ暑いほど真価が存分に発揮される、まさに「夏の申し子」とでも言うべき商品なのだ。
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