「松本氏性加害疑惑」は「ロス疑惑」と同じ道を辿るのか?【窪田順生】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「松本氏性加害疑惑」は「ロス疑惑」と同じ道を辿るのか?【窪田順生】

『ありがとう、松ちゃん』より

■大企業に勤めるサラリーマンの「保身」が元凶

 ただ、ここで、ひとつの疑問が浮かぶはずだ。なぜ、マスメディアは、自分たちの力で松本氏の性加害疑惑を取材しないのかということだ。「もしかしたら現場の記者たちは、自分で取材をしたいけれど、何かしらの圧力や妨害を受けているのでは?」なんて可能性も頭によぎる人もいるかもしれない。ただ、テレビ局の報道現場で、実際に働いていた経験から言わせていただくと、そんなドラマチックな話ではなく、単に大企業に勤めるサラリーマンの「保身」という側面が強い。

▲テレビ局はただの大企業に、中の人はただのサラリーマンに

 例えば、全国キー局の記者になったと想像してもらいたい。あなたは、マスメディアが文春報道一色になっている現状に疑問を抱き、独自で取材を開始。そこで、文春報道に疑念を抱かせるような関係者の証言を得たとしよう。そこで、どうにか上司を説得して、昼の情報番組で「特ダネ」として、大々的に取り上げてもらうことに成功をする。では、これであなたの記者としての社内評価はアップするかというと逆だ。人事評価に大きく響いて、異動の時期がきたら、総務部などに飛ばされて、記者としてのキャリアが途絶えてしまう可能性が高い。  

「ジャーナリストとして、当たり前のことをやったのになぜ?」と納得がいかないだろうが、これは、テレビ局社員としては当然の報いだ。自己中心的な行動によって、関係各位に迷惑をかけて、会社の信用を大きく傷つけてしまったからだ。

 ご存知のように今、テレビが最も恐れているのは、政治家からの圧力でもなければ、さまざまな世界の「ドン」からの恫喝でもない。「視聴者からのクレーム」だ。番組内で少しでも差別的な言動をしたり、イジメを助長するような演出をしたりすれば、すぐに抗議の電話が鳴るかSNSで炎上をする。  

 そして、BPO(放送倫理・番組向上機構)にも苦情が寄せられる。審議結果によっては、番組担当プロデューサーがきついお叱りを受け、何らかの処分が下される場合もある。これが昔のように尖ったバラエティ番組が消えて、タレントがトークをするか、VTRの感想を述べるだけの番組ばかりになった理由だ。

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窪田 順生

くぼた まさき

ノンフィクション作家

一九七四年生まれ。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集
者を経て現在はノンフィクション作家として週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。『潜入 旧統一教会 「解散命令請求」 取材NG最深部の全貌』が発売中。

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