『松本清張賞』と『小学館文庫小説賞』をダブル受賞したゆとり世代が、作家になって思うこと。
現在観測 第45回
はじめまして、額賀澪といいます。小説家になって二年目になる者です。
1990年、バブル経済が崩壊した頃に生まれました。スーパーファミコンと同い年の二十五歳。完全なる「ゆとりですがなにか」世代でございます。
生まれた頃から不景気で、世界中でテロが起こるちっとも明るくない時代を生きていたというのに、何故か小説家という不安定な職を選んでしまいました。
◆新人の単行本は売れない。悲しいくらい売れない。
私は2015年6月に2冊の本が出版され、作家デビューを果たしました。又吉直樹さんが『火花』で芥川賞を受賞する、少し前のことです。デビューから1年で4冊の本を出すことができ、10月27日には5冊目の単行本が出る予定です。幸運にも、4冊ともそれなりの冊数を刷っていただくことができました。
作家にとって、本を出版する際に「何冊刷ってもらえるか」というのは非常に大きな意味を持ちます。作家は「何冊売れたか」ではなく、「何冊印刷したか」で懐に入ってくるお金が変わるのです。
ぶっちゃけると、10万冊刷って1万冊しか売れなくても、作家は10万冊分の印税を得ることができます。しかし、何冊刷ろうと実際の売上が作家の次回作の初版部数を決めるので、多く刷ってもらえればいいというわけでもありません。
私のデビュー作『屋上のウインドノーツ』と『ヒトリコ』の初版部数は、幸運にも新人作家としてはかなり多い方でした。「たくさん刷って全国に名前を売ってやる。だからしっかり書け」という出版社からのエールだったと受け取っています。
「お前なんかに言われなくてもわかってるよ」と思う人も多いかもしれませんが、新人作家の単行本はなかなか売れません。実績のない新参者の書いた本。1500円。吉野家の牛丼を3杯食べてもお釣りが来る。それを買って読んでくれる人は、本当に本が好きな方々です。安価な文庫本になってやっと、多くの人の手に取ってもらえるようになります。
じゃあどうして出版社は赤字覚悟で新人の本を出してくれるのか。確実に売れるベストセラー作家の本ばかりを出せば、そんな心配はいらないじゃない。
それは新人作家を育成するためです。出版社は売れる本をたくさん出し、その利益で新人作家の本を出す。育った作家の本が売れるようになる。その利益で次の新人作家の本が出る。
私が本を出させてもらえるのも、先輩作家の方々がばっちり稼いでくださっているから、というわけです。
◆死にたくない!
私はワンルームの木造アパートに大学時代からずっと住んでいます。駅徒歩10分。家賃6万円の家をルームシェアして暮らしているので、家賃は折半して3万円。ちょっと年季が入っていて狭いですが、生きていくのに支障はありません。ちゃんとお風呂もトイレもついています。代わりに洗面台がないので、毎朝台所の水道で顔を洗って歯を磨いています。
この話をすると、年上の人からは「さっさと引っ越せ」と言われます。「印税も入ってるし、もっといいところに住めるでしょ」と。
確かに、今ならもう少しだけ広くて駅から近いところに住めるかもしれない。けれど私は今年の9月、3度目のアパートの契約更新をしました。
だってそこはゆとり世代。どんなに本が売れたって、明日どうなるかわかりません。
調子にのるといつか痛い目を見ると教えられながら、実例を目の当たりにしながら生きてきたのですから。
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