人工知能を搭載した「アルファ碁」は考えて試合をしているわけではない。京大教授が語る
『アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか』より紹介
◆人工知能のアルファ碁と、人間の違い
大事な人間との違いとしては、アルファ碁は、ゲーム進行の時間軸上の流れはほとんど考慮していないという点が挙げられます。どういうことかというと、他の囲碁プログラムでもそうですが、ある盤面が与えられれば、それから開始していつでも計算をして次の一手を導き出せるということです。そんなのは当たり前だと思われるかもしれませんが、人間がプレイしている時にはこうは行きません。
◆アルファ碁は考えていない
ややもすると、人間は、ゲーム開始から構想を練り、相手の構想を探り、自分の戦略を考え、その戦略に基づいた戦術を検討します。ときにはその戦略に拘泥して負けてしまうこともあります。
ある戦術がうまくいけば喜び、失敗すれば悔しがるという、とても人間的な側面も人間同士の対局の場合には必ず姿を現します。それが、ゲームを面白くしている重要な要素でもあるのだと思います。
しかし、アルファ碁には、このような意味での高次の戦略や目標はまったくありません。もちろん勝率をできるだけ最大にするという方向に向かって木の探索を行い、次の一手を決定しているわけですが、計算機の中で行われていることは前の節までで説明した通り、単なる計算、number crunching です。この点は、いくら強調しても足りないぐらい大切な事実です。
人は今まで人間との対局で養ってきた相手のモデルを持っていて、相手も自分と同じように考えているはずだと思いがちです(その相手のモデルは自分のやっている思考をベースにしているからです)。実際、計算機と人間の対局の解説とかでは、しばしば人間にしか当てはまらないような説明が飛び出してきます。
曰く、「アルファ碁、何を考えているのでしょうか?」とか「これは勝負手ですね」とか「アルファ碁はもう勝ちが見えているので、ここは手を抜いてきたのでしょうか?」とか、挙げればきりがありません。
このように「擬人化」したプログラムの挙動の説明は、しばしば正しくないので、注意して聞く必要があると思います。計算機プログラム、特に人工知能のプログラムについて考えるときに人間が陥りやすい罠の一つではないかと思います。
持ち時間が少なくなってきても焦ることもなく、秒読みで計算を途中で打ち切らざるを得なくなっても「平然と」(これも擬人的なので使わないほうがよい言葉ですが)、計算を打ち切ってしまいます。アルファ碁には心理的な弱点がないと言ってもよいかもしれません。