イビチャ・オシムが目指した「走るサッカー」は世界サッカーのどの位置にいたのか |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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イビチャ・オシムが目指した「走るサッカー」は世界サッカーのどの位置にいたのか

新刊「急いてはいけない」を上梓したオシム氏。訳者が語るその素顔

■ドイツ代表によるポゼッションへのアンチテーゼ

 今日においてポゼッションスタイルの代表例がベップ・グァルディオラ時代のバルセロナであったならば、スピードスタイル=プロフォンドゥールの代表例がブラジルワールドカップのドイツ代表といえる。

 2011年クラブワールドカップ決勝でバルセロナは、3・7・0のフォーメーションでサントスを4対0と粉砕。スペイン人記者たちも驚嘆する究極のポゼッションサッカーを披露した。
 その3年後にドイツは、縦へのスピードを進化させることで、ヨアキム・レーブになってからこれまで幾度となく跳ね返されてきた主要大会での準決勝・決勝の壁を突き破り、世界の頂点に立ったのだった。それは同時に、世界を席巻していたバルサとスペイン代表のポゼッションスタイルへのアンチテーゼでもあった。

「走ること」を強調するイビチャ・オシムは、スピード=プロフォンドゥール志向と見なされている。実際、選手がピッチを縦横無尽に走ったジェフのスタイルは、Jリーグのレベルをはるかに越えた運動量にばかり目を奪われたが、彼が実現しようとしたスタイルは、ごく平均的な日本の選手でも、ヨーロッパのトップレベルと同じスピード、同じディシプリンでプレーができるというコンセプトに則ったものであった。

 その考え方と実現したものは斬新ではあったが、選手の技術とスピードの調和が十分に取れているとは言い難かった。例えばフィリップ・トルシエなどは、「急ぎ過ぎている」とオシムスタイルを批判している。日本人の技術にあったリズムとスピードでプレーすべきである、と。

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