指揮官栗山英樹が心を動かされたベテランの一言
『「最高のチーム」の作り方』を上梓した栗山英樹監督、その哲学に迫る!
■ファーストまで全力で走らない野球はやったことがない
「僕はファーストまで全力で走らない野球はやったことがありません」
いまの状態では、代打で打つことはできても、打ったあとにファーストまで全力で走ることができない。そんな男に野球をやる資格はない、そう言うのだ。
矢野謙次がこれまでどんな環境で、どんな姿勢で野球に取り組んできたか、すべてを物語るひと言だった。
でも、だからこそ、そんな選手だと十分に理解しているからこそ、我々には矢野謙次が必要なのだ。
「悪い。これはそういうことじゃない。打つだけ打って、ケガしないように走る。ウチのチームにはお前が必要なんだ。気持ちはわかっているから、やれ」
そう言って、半ば無理ヤリに矢野を一軍に引き上げた。
切り札は打率が高いとは限らない。
今年は35回打席に立って、29打数6安打8打点、打率2割0分7厘。
でも、たった一本のホームランは、交流戦のベイスターズ戦。0対0で迎えた9回表、ここぞという場面で放った見事な代打2ランだった。
7月30日、首位ホークスを迎え撃った大事な一戦では、同点の9回裏、2アウト満塁で打席に立つと、あっさり2ストライクまで追い込まれながら、ひとつボールを選んだあとの4球目、ピッチャー・五十嵐(いがらし)亮(りょう)太(た)の抜けたナックルカーブを身体で受け止め、デッドボール。矢野のボールに対する執着心が大きな大きなサヨナラ勝ちを呼び込んだ。
だから、切り札なのだ。
彼に教えてもらいたいことは、まだまだたくさんある。(『「最高のチーム」の作り方』より抜粋)
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