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マリアナ沖海戦と小沢治三郎中将③

マリアナ沖海戦と小沢治三郎中将③

敵艦隊を発見しながらも
不可解な攻撃中止

 

6月15日、アメリカ軍はサイパンへの上陸作戦を開始。小沢率いる第1機動艦隊は給油地のフィリピン中部のギマラス泊地を出撃した。

同機動艦隊は空母9隻、戦艦5、重巡11、軽巡2、駆逐艦30の57隻。このうち空母部隊は小沢座乗の旗艦「大鳳(たいほう)」「(ずい)(かく)」「(しょう)(かく)」の第1航空戦隊、「(じゅん)(よう)」「()(よう)」「(りゅう)(ほう)」の第2航空戦隊、「千歳」「千代田」「(ずい)(ほう)」の第3航空戦隊から成る。艦上機は約440機。

一方、ミッチャー中将率いる第58任務部隊は、正規空母7、軽空母8、戦艦7、巡洋艦21、駆逐艦69の計112隻、艦上機は約900機を擁した。 

小沢はミッドウェー海戦の戦訓を踏まえ、索敵に力を入れるように命じていた。6月18日午前5時、第1弾索敵隊、午後11時には第2弾索敵隊が発進した。午後2時15分、「サイパン西方に敵艦隊発見」の報が打電されてきた。

距離的にはアウトレンジ戦法が可能な地点である。午後3時30分、前衛部隊の「千代田」は攻撃隊21機を発進させた。が、小沢は攻撃中止を命じた。

「この攻撃は飛行機を陸上基地に移動させることを前提にしなければ実施不可能なためにこれをとりやめ、19日の航空戦においては、まず(マリアナ)列島西側進出の敵正規空母群を撃滅する」

小沢はこの作戦方針に基づいて北東から反転して南方へ針路を変えた。

「大鳳」から全部隊に発光信号で翌日の戦闘要領などの命令が送られたが、命令文として意味を成さない。第2航空戦隊参謀として「隼鷹」艦橋にいた奥宮正武少佐は自ら受信したが、発光信号さえまともに伝わらないことに慄然(りつぜん)とし、翌日の決戦に不安を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

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松田 十刻

まつだ じゅっこく

1955年、岩手県生まれ。立教大学文学部卒業。盛岡タイムス、岩手日日新聞記者、「地方公論」編集人を経て執筆活動に入る。著書に「紫電改よ、永遠なれ」(新人物文庫)、「山口多聞」(光人社)、「撃墜王坂井三郎」(PHP文庫)など。


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