出口治明氏が貯蓄の心構えを語る「人生を楽しむことを優先させたうえで貯めることが肝心」
出口治明さん5月毎日更新 Q.8 お金を貯めることに対する考え方について教えてください。
給与の手取り半年から1年分が目安
お金はそれ自体に価値はなく、何かと交換することによって、初めて価値が生まれます。つまり、お金は使うことが最も大切だと言えるわけですが、この「使う」と「貯める」は切っても切れない関係にあるのです。
使うことばかりを考えていたら貯めることはできませんし、貯めることだけに執着していたら、お金を使うことによる楽しさを得ることもできません。
そうした「使う」と「貯める」のバランスをいかに上手く取れるかが、お金を貯めるうえで、非常に重要になってきます。
そして、この「貯める」お金は、財産三分法で言うところの「預金」です。
毎月の給与の手取り分から、他の2つ(日常的に使う「財布」と“なくなってもいいお金”として捉える「投資」)に回す分を引いたお金のことですね。引き出しやすい流動性を重視し、「財布」の中身の補充、残った分を貯蓄に充てることが目的です。
では、毎月どれぐらい貯蓄すればいいのでしょうか?
老後資金は3000万円必要とか、手取りの15%を貯蓄すべきとか……。メディアを通して、そうした情報がよく流れてきますが、あまり鵜呑みにしないようにしましょう。強迫観念に囚われて、たとえば好きな趣味を我慢したり、食べたい物を控えたりと、無理してまでお金をコツコツ貯める必要はありません。
「お金は人生を楽しむための手段」ですから、それを優先させたうえで貯めることが肝心。そして、人間が100人いれば100人の人生があるように、自分の生活に合わせた貯蓄をすればいいのではないでしょうか。
そんな心構えを持ったうえで頭に入れておきたいのは、病気やケガ、失業など、人生はいつ何が起きるかわからないということ。万一のときのために、セーフティネットとしてのお金は最低限貯めておきたいところですね。
金額の目安は、世界の常識から言うと、給与の手取り半年から1年分ぐらいでしょうか。だいたいこれぐらいあれば、ひとまず今の生活を続けながら、その先の対策も練れるかと思います。
仮に手取りの年収が300万円だとしたら、目標金額達成までの期限を設定し、毎月の貯蓄額を決めます。期限は短すぎると無理が生じますし、長すぎるとセーフティネットの意味をなさない可能性もあります。自分にとって最適な期限と貯蓄額を設定することが何よりも大切です。
もし途中で財産三分法の「預金」だけではやり繰りが苦しくなったときは、「投資」のお金を削ってもいいでしょう。「財布」についても、人生を楽しむために使うお金以外で削れる分があれば、貯蓄に回しても構いません。これは、結婚資金や子育て資金などを貯めたいときも同様です。
毎月入ってくるお金が突然増えることはありませんから、自分で「使うお金」と「貯めるお金」をきっちりと分けて考えること。貯めると決めたお金は絶対に使わないこと。それが貯蓄のシンプルな考え方です。