「公的年金保険は破綻しない」保険業界のパイオニアが断言
出口治明さん5月毎日更新 Q.15 将来、公的年金保険が破綻すると言われることがありますが、本当ですか?
政府以上に安全な金融機関は存在しません
現代の日本社会において、公的年金保険が重要な課題の一つとして捉えられていることは確かです。
国の借金は1000兆円を超え、年々膨らむばかりということもあり、このままでは財政が破綻して、公的年金保険も破綻してしまうのではないか。せっかく納付している年金が、将来支給されないのではないか――。
メディアでも公的年金保険の破綻をテーマにした報道を目にすることが多々ありますし、金融機関の営業担当者が「公的年金保険は危なくて信用できません。自分の身は自分で守りましょう」などと言って、金融商品を勧めてくることだってあるでしょう。
そうした状況に置かれたとき、将来に対する不安に苛まれる人たちが数多くいたとしても、何の不思議もありません。
では、実際に公的年金保険は本当に破綻するのでしょうか。ほとんどの識者は破綻しないと考えています。その証明方法はいくつかありますが、ここではその内の1つ簡単なものを紹介します。
現在、日本の税収は年間で約58兆円です(2016年度)。それに対して、歳出(一般会計)は約97兆円もあります。なぜ、お金を約39兆円も多く使えるのかと言えば、その分は、国債を発行して調達しているからです。
歳入不足を国債で補っているわけですが、これは、国債が発行できれば財政を維持できるということでもあります。それによって、公的年金も支払うことができます。
つまり、国債の発行が可能である限り、公的年金保険が破綻することはありません。
逆に、国債の買い手がいなくなったとき、日本は国家的な危機に陥り、財政が破綻します。当然、公的年金保険も同様です。
日本では、国債の多くを、銀行や証券会社、保険会社などの金融機関が保有していますが、日本政府がデフォルト(債務不履行)を宣言し、国債が紙くずになったとしたらどうなるか。政府が倒れる前に、金融機関が次々と潰れてしまうことでしょう。
国の危機は国債の危機であり、国債の危機は金融機関の危機。金融機関がいくつか潰れても国は潰れませんが、国が潰れると金融機関は必ず潰れます。これは近代国家における200年前からの常識ですが、要するに近代国家では政府以上に安全な金融機関は、存在しないということです。だから国の格付が下がれば自動的に金融機関の格付も下がるのです。
先述した通り、最近、公的年金保険が危ないということで、納付するべき公的年金の保険料を金融商品への投資や預貯金に回す人が増えていると聞きます。
自分の老後生活を想像したときに、公的年金保険では“足りない”という理由で金融機関を活用するならお勧めします。しかし、公的年金保険が“危ない”から、その代わりにという理由であれば、まったく意味がないということです。安全なところ(国)から安全でないところへお金を移し替えているわけですから。
ちなみにヨーロッパでは、公的年金保険が破綻すると考えるような人はほぼいないといわれています。日本とは違い、ここまで説明してきた原理原則を、学校で教わっているからです。
メディアや金融機関の営業担当者が煽る公的年金保険破綻の話に踊らされないためにも、お金に関するリテラシーはしっかりと高めていきたいところです。