コロナ危機が加速した「資本主義の理想」は「株主と経営者以外は無用」
雇われて生きることの限界が見えてきた
コロナ危機で「資本主義の理想」は加速し、「株主と経営者以外は無用」になる時代が来ると語るのは、著書『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』がロングセラーの著述家・藤森かよこ氏(福山市立大学名誉教授)。「資本主義の王道はコスト削減。雇われていることの限界が見えてきたいま、労働者個人は、被雇用者としての生き方以外の生き方を考えておかなければならない」と指摘する。その真意とは投稿を表示?
■ニューノーマルは都心オフィス空室率を上げる
「日本経済新聞」7月10日朝刊第1面が、コロナ危機が生んだニューノーマル(新常態)によるオフィスの変化を取り上げていて興味深い。
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための企業に対する休業要請のために、オフィスのあり方が変わった。在宅勤務のリモートワークの普及が進んだ。リモートワークでも業務に支障がないと分かった企業はオフィスの面積を減らしている。
富士通は、これからの3年でオフィス面積を半減させることを決定した。レノボ・ジャパンやNECパーソナルコンピュータは、秋葉原の本社オフィス縮小の検討に入った。エー・ビー・カンパニーは本社を6月に移転させ、面積を10分の1に減らした。電力比較サイトのエネチェンジは大手町の本社のオフィス面積を4割に減らした。
ただし、三密状態を防ぐためにオフィスが広がる事例もあることはある。ファンケルは1フロアに集約していたコールセンターの拠点を5フロアに分散させ、座席間隔は約2メートルにした。味の素は、フリーアドレスの座席を半減させた。武田薬品工業は6月上旬から10人用会議室を2人用にした。エレベーターも同時使用は2人までとした。
■ニューノーマルは企業の拠点を分散させる
在宅勤務する社員が自宅近くで利用できる部屋が必要ということで、郊外や地方では、小規模なオフィス需要は増えている。
キリンホールディングスは、首都圏にシェアオフィスを導入した。野村不動産はサテライト型シェアオフィスを2027年度までに150拠点に増やす。場所は、JR横浜線や小田急線沿いである。花王は、グループ販社の営業拠点をサテライトオフィスとして活用する。
■資本主義の要点はコスト削減
資本主義体制における資本の運動とは、超簡単に言えば、利潤を増大させ蓄積し、蓄積された利潤を投資し、さらに利潤を得て蓄積することの反復だ。利潤を増大させるには、良い商品や良いサービスを開発提供するだけでは足りない。コスト削減をするしかない。
したがって、コロナ危機によってもたらされたニューノーマルによってオフィス運営コストが削減されるのは、企業にとっては喜ばしいことだ。しかし、コストの中でも人件費の削減が一番効果が高い。
だから、20世紀初頭のフレデリック・ウィンズロー・テイラーは、賃金の高い熟練労働者の作業動作のひとつひとつを分析し、細分化し、賃金の低い非熟練労働者(主として当時のアメリカに増大していた移民)に分業させて生産性の維持と賃金抑制の両方を達成した。これは「テイラーの科学的管理法」と呼ばれ、大学の「経営学原理」の講義で最初に学ぶことだ。
この「科学的管理法」で探求された分業システムが徹底されたのが、チャップリンの映画『モダンタイムズ』で風刺されたオートメイションの流れ作業だった。
異論もあろうが、「経営学」というアメリカ発学問は、資本主義体制の枠組みのなかでのコスト削減法、効果的な搾取方法に関する学問だと言える。
それでも、フォード自動車の創業者のヘンリー・フォードが実践した「フォーディズム」(Fordism)のような、労働者をコスト削減の対象としてだけ見ない経営方法も20世紀には発展した。
労働者を搾取するだけだと大量に生産した商品を買う消費者がいなくなるので、比較的高い賃金を労働者に払い、自社の商品も買ってもらう。20世紀における労働者の中産階級化は、企業の発展と利潤増大に寄与したからこそ実現した。
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藤森かよこ
『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください』
1600円+税