韓国人シンガーKが日本の伝統を旅する「日本の千年のデザイン文化を感じる仕事」
第13回 名古屋黒紋付染 飯田優美堂 紋章上繪師・飯田勝弘さん
国の無形文化財にも指定されている「紋章上繪(もんしょううわえ)」とは、紋章(家紋)を手書きで描くことを言います。“紋付”に代表されるように、着物に描かれた家紋を目にする方も多いでしょう。冠婚葬祭の和装式服には欠かせません。同じ家紋でも職人が一筆入魂で描く手書き紋。紋章上繪師は、10年以上も修業し、下絵描き、紋型掘り、色合わせ、摺り込み、線描きなどの様々な伝統技法を身につけなければなりません。
江戸時代に武家の略礼服として誕生した黒紋付。その後は庶民の最礼服となり広まった。明治時代には五つ紋の黒紋付羽織袴は第一礼装となり、日本人の人生の節目に欠かせないものに。しかしその後、洋装や短期間で大量生産も可能な印刷紋が広く普及。そのなかにあっても、紋章上繪の伝統技法は継承され続けてきた。
紋章上繪の中でも、名古屋では「名古屋黒紋付染」という独自の技法が発展、徳川家康に認められたこともあり、一大産業として盛んに製造されてきた。その特徴は、どこまでも深い黒に染め上げられた生地に鮮やかな白色の紋。お互いがお互いを引き立てるために様々な工夫が施されている。
まず、紋を美しく仕上げるために、名古屋独特の紋当網付(もんあてあみつけ)技法が用いられています。紋の輪郭に合わせて作られた紋型紙と金網を生地に縫いつける。染料に長く漬け込むことが可能となり、よりしっかりとした黒色に染めることができる。また、その黒色に深さをもたらすため、紅い染料での「紅下染め(あかしたぞめ)」を行うのも名古屋黒紋付の特徴。
「金網を生地に縫い付けることで、高温で長時間煮込んでも、紋型紙が剥がれにくいため、しっかりと染めることができるんです。色艶、発色がよく、堅牢度(外的条件に対する染色の丈夫さを示す)の高い、光沢のある黒に染め上げられるのです」と、名古屋市天白区にある武田染工(https://takedasenko.jp/)の名古屋黒紋付染伝統工芸士の武田和也さんは話す。