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「近未来は最悪を予想しておくぐらいが丁度よい」これだけの理由(藤森かよこ最新論考)

「近未来予測・対策本や動画」で涼もう2020年盛夏

■書籍による未来予測

 7月になると、アフターコロナ後の未来予測・対策本はいっぱい出版されたが、それらのかなりは、経営者はどうあるべきか、若者は何を努力し、どんなスキルを身に着ければ、生き抜けるかを教えるものだった。

 しかし、私は思う。どうあがいても、ほとんどの人間は「無用階級」になる未来が待っていると。ビッグデータを蓄積した「学習できるAI」は、すでにチェスでも囲碁でも人間に勝っている。

 AIにはできずに人間ができる仕事は、理不尽で相手にするのも無駄な類の人間への濃密接触ケア労働および感情労働ぐらいだろう。そういう「理不尽で相手にするのも無駄な類の人間」も、いずれは遺伝子工学の発展で生まれてこなくなるので、そういう類の人間へのサーヴィス労働も、いずれは消える。

 この「無用階級」(useless class)というのは、イスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが2015年に発表した
HOMO DEUS:A Brief History of Tomorrowに出てくる言葉だ。

  「二一世紀の経済にとって最も重要な疑問はおそらく、膨大な数の余剰人員をいったいどうするか、だろう。ほとんど何でも人間よりも上手にこなす、知能が高くて意識を持たないアルゴリズムが登場したら、意識のある人間たちはどうすればいいのか?」(『ホモ・デウス—テクノロジーとサピエンスの未来』(柴田裕之訳、河出書房新社、2018)下巻147)

 ほとんどの人間は「無産階級」であることで苦しんできた。とはいえ、無産でも労働すれば賃金を得ることができた。しかし「無用階級」になったら、どうすればいいのか。無用階級でも死ぬまでの暇潰しをしなくてはならない。労働は最も合理的な暇潰しであった。しかし、雇用が消える未来が近い。これは人類史始まって以来の大衝撃で大変化だ。人類に突き付けられた大挑戦だ。それを考えると、猛暑なのに私はさらに涼しくなる。

 副島隆彦の『日本は戦争に連れてゆかれる—狂人日記2020』(祥伝社新書、2020)も涼しくなる未来予測本だ。大恐慌とか預金封鎖とか新円切り下げとかは、20年前から副島が予測していたことであり、英米に騙され太平洋戦争を始めたように、日本はまた戦争に駆り出されていくということも前から予測していた。

 さらに、副島は、コロナ危機は「ショック・ドクトリン」(shock doctrine)として利用されると予測している。副島の定義によると、ショック・ドクトリンとは、「権力者、支配者が、目の前に起きた大災害の脅威と、戦争の危機を煽り、民衆を脅かして、恐怖に叩き込んで、青ざめさせて、思考力と判断力を民衆から奪い取ること」である。

 人気ブロガーであり、有料メルマガやネットコラムでも多くの読者を持つ鈴木傾城の近著『ボトム・オブ・ジャパン 日本のどん底』(集広舎、2020)の惹句は、「コロナショックで世界は地獄と化した。普通の生活は簡単に崩れ去る。落ちないはずだったところに落ちていく。この恐怖、覗く勇気がありますか?」だ。

 鈴木は、『ボトム・オブ・ジャパン 日本のどん底』において、近未来予測として「低所得層はさらに増加する。少子高齢化はさらに加速する。結婚率はさらに低下する。虐待はさらに増加する。日本国民の自信喪失はさらに深まる。国への帰属心はさらに低下する。政治不信はさらに深まっていく」と書いている。

 この本の最後に、鈴木は、リストラや収入減が恒常化する社会における「できてあたりまえの生活防衛」を30項目列挙する。「無駄なものは買わないこと」や「稼げる仕事は辞めないこと」とか「自暴自棄にならないこと」とか「見栄を張らないこと」とか「友人を選ぶこと」とか常識的なあたりまえの30項目だが、このようなあたりまえのことこそ実践は難しい。

 いずれにしても、未来予測・対策本は、最悪の未来図を提示してくれるほうがいい。見通しの甘さは命取りだ。希望的観測で誤魔化さず、悲観的に想定し備えつつ、感情は楽観的に保持するのが、生き抜くには有効な姿勢だろう。

 だから、副島の『日本は戦争に連れてゆかれる—狂人日記2020』の「私は、孤独死(ソリタリー・デス)こそは人間のこれからの生き方、死に方である、と思っている。誰かひとり、自分の死体(遺体)を片づけてくれる近親者がいてくれればいい。葬式も仏僧(坊主)もお墓もいらない」という最後の文は、私にはいささか感傷的に思える。

 近未来の日本では、結婚も出産も減り、感染症や放射能汚染が怖くて人は人と接触しなくなるのだから友人関係も乏しく、今よりも無縁社会になる。孤独死しても、近親者は遺体を引き取りに来ない可能性が高い。

 そのかわりに、死後何週間も何か月間も遺体が発見されず腐敗放置されることはなくなるだろう。人体にマイクロチップが埋め込まれた近未来の管理監視社会においては、生体反応がなくなった人間はすぐに探知され、遺体はロボットが回収し焼却場に運び処分してくれるだろう。これはこれで素晴らしい新世界だと、私は思う。

 

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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