タリバンの復権はなぜ「アメリカの世紀の終焉」なのか?【中田考】凱風館講演(後編) |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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タリバンの復権はなぜ「アメリカの世紀の終焉」なのか?【中田考】凱風館講演(後編)

「凱風館」での中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演(後編)

2012年6月27日、同志社大学神学館で開催された公開講演会「アフガニスタンにおける和解と平和構築」。左端:筆者、左から2番目:カーリー・ディーンムハンマド師(タリバン代表)、右端:ムハンマド・スタネクザイ(カルザイ政権代表) ※内藤正典氏撮影

■曲解されるタリバン政権

 

 今、アフガニスタンにはたくさんのメディアが入っています。イスラーム世界とか中東のことを知っている人間からすると、報道の自由や活動の自由があるところほど、その報道が「ここでは我々は弾圧されている」と批判することができるので、現地の事情を知らない欧米では言論弾圧がひどいとの誤解を受けることになるという逆説が生じます。

 しかし実際のところ、本当に報道の自由がない場所からは、弾圧されている、という報道自体が出てきません。報道の自由があり、政治の自由があるからこそ、反体制運動が存在していることを報道できるんです

 アフガニスタンでも、今回タリバンが復権するまで一切報道がなかったですよね。勿論、国内では、パンとサーカスの愚民政策で、娯楽番組はたくさんありましたが、アメリカ軍などに対しては自由な取材などまったくゆるされておりませんでした。それに対して現在タリバンが治めるアフガニスタンには報道の自由があるからこそ、街中でデモをやっていることが報道されているんです。

 それらの報道では「タリバン政権はデモを許可制にしろと言っていてひどい」などと書かれているわけですが、日本でだってデモは許可制ですよ。しかもアフガニスタンはずっと停電していましたから、そもそも道に信号がないんです。ですから道で横に広がってデモをされたら大変なことになるので、警官が一生懸命叩いて整理しているわけです。その様子を「タリバンは鞭で叩く」とすぐに報道されてしまうわけです。けれども、アメリカ軍が駐留している時には、軍が検問に抵抗でもすれば、テロリスト扱いされてすぐに撃たれて殺されていました。どちらがひどい弾圧なのでしょうか。

 

 さて、2021815日にタリバンは一日で首都のカブールを制圧したのですが、実はその時タリバンは全然戦闘的ではありませんでした。

 アフガニスタンには34の州がありますが、その最初の州都、兵庫県なら神戸市に相当する場所が落ちてからカブールが落ちるまでに掛かった期間はわずか2週間程度でした。ということは、それ以前の段階ですべて交渉済みだったということです。

 実は当時私が所属していた同志社大学は、2012年に開催した会議でタリバンの正式代表を世界で初めて招待しています。現在でもタリバンの幹部たち、そしてタリバン政権そのものが国連の制裁リストに載ってるのですが、その制裁リストに載ってる人たちを、偶然が重なってなぜか招待できてしまったんです。

 当時私は同志社大学に勤めていまして、同大学のグローバル・スタディーズ研究科にいらっしゃった内藤正典先生と一緒に裏で手を回して、今は有名になったカタルのドーハにあるタリバンの代表部からタリバンの公式の代表を招待することに成功しました(内藤先生には今回新刊『タリバン 復権の真実』の巻末解説をご寄稿いただいています)。その時が初めてタリバンが世界のマスコミの前に姿を顕したのです。

 元々、我々はタリバンだけを呼ぼうとしていたのですが、それが外交ルートで漏れて、アメリカによる海外政権であるアフガニスタン共和国から「我々も参加させてくれ」と連絡があったので、両者が同席することになったんです。

 タリバンは「アフガニスタン政府とは、アメリカの占領軍がいる間は絶対交渉しない」と言ってましたので、共和国の参加は拒まれるかと思ったんですけれども、意外にも「我々は交渉はしないけれども、アフガニスタン人同士で同席するのは構わない」と言うので、受けてもらいました。

 こうして日本で初めて、「タリバンは、外国人に守られている傀儡政権と不平等の条件では話はしないけれども、対等な関係であれば普通に話ができる」ということが実証されたわけです。私もタリバンおよび共和国の代表と一緒に食事をしたり、笑いあったり、その後には一緒に礼拝をしたりしました。

 

京町屋の料亭で鍋を囲むカーリー・ディ ーンムハンマド師(タリバン代表:奥左端)、ムハン マド・スタネクザイ氏(カルザイ政権代表:奥右端)、 ザイーフ師(第一次タリバン政権パキスタン大使)。 本文80頁、内藤正典「アフガニスタンの和解と平和 構築」『同志社時評(第134号)』73頁(https://www. doshisha.ac.jp/attach/page/OFFICIAL-PAGEJA- 1773/18976/file/134_072.pdf)参照。 ※内藤正典氏撮影

 

 実は今回の状況に繋がる和平会議もそこから始まっているんです。

 その後ヨーロッパが会談を取り持とうとしましたが、ヨーロッパはいつものように押しつけがましいことを言って失敗し、結局はロシアと中国が主導する今の流れになってきています。

 2012年の時点で、タリバンとアフガニスタン共和国それぞれの代表を日本に呼んだ際、どういう形の和平が望ましいかの草案を私が作っています。元々タリバンが正統政府であったところに、後からアメリカが力づくでアフガニスタンに侵攻して傀儡政権を作ったのですから、正統なタリバン政権が傀儡政権を認めて吸収する形で和平をするのが筋である、という内容のものです。それから9年経ち、結局その形になりましたね。

 

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◉中田考『タリバン 復権の真実』出版記念&アフガン人道支援チャリティ講演会

日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30

場所:「隣町珈琲」 品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1

◆なぜタリバンはアフガンを制圧できたか?
◆タリバンは本当に恐怖政治なのか?
◆女性の権利は認められないのか?
◆日本はタリバンといかに関わるべきか?
イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。

    参加費:2,000円 
    ※当日別売で新刊『タリバン 復権の真実』(990円)を発売(サイン会あり)

    ◉お申込は以下のPeatixサイトから↓

    ★内田樹氏、橋爪大三郎氏、高橋和夫氏も絶賛!推薦の書
    『タリバン 復権の真実』

    《内田樹氏 推薦》
    「中田先生の論考は、現場にいた人しか書けない生々しいリアリティーと、千年単位で歴史を望見する智者の涼しい叡智を共に含んでいる。」

    《橋爪大三郎氏 推薦》
    「西側メディアに惑わされるな! 中田先生だけが伝える真実!!」

    《高橋和夫氏 推薦》「タリバンについて1冊だけ読むなら、この本だ!」

     

    ※イベントの売上げは全額、アフガニスタンの人道支援のチャリティとして、アフガニスタン支援団体「カレーズの会」に寄付いたします。

    ※上のカバー画像をクリックするとAmazonサイトへジャンプします。

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    中田 考

    なかた こう

    イスラーム法学者

    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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