体育会系文化部と呼ばれる吹奏楽部員たちが綴る「吹部ノート」とは?
全国の吹奏楽部員たちの間で話題となった一冊、『吹部ノート』の第2弾が今秋刊行決定。そもそも『吹部ノート』とは!?
高校の吹奏楽部(通称・吹部)というと、キラキラ輝く楽器を操って音楽を奏でる優雅なイメージがあるかもしれない。だが、その実態は、文化系の部活動でありながら、体育会系に匹敵する練習量や上下関係で知られている非常に厳しい部活だ。そして、年に1回、秋に愛知県の名古屋国際会議場センチュリーホールで開催される“吹奏楽の甲子園"、全日本吹奏楽コンクールへの出場を目指し、まさに汗と涙の青春を送っている。
そんな吹奏楽部員たちが綴っているものがある。「吹部ノート」だ。
筆者は昨年11月、まさしく『吹部ノート』というタイトルの書籍を出版した。2015年度の全日本吹奏楽コンクールを目指す高校6校(安城学園高校、武生商業高校、大阪桐蔭高校、東海大付属高輪台高校、出雲高校、八王子学園八王子高校)に取材し、「吹部ノート」を切り口に、部員たちの思いや部内のドラマを描いたドキュメンタリーである。
では、「吹部ノート」とは何なのか?
大きな意味合いとしては「吹奏楽部員が言葉を綴ったもの」で、その中には具体的に様々なものが内包されている。
もっとも一般的なのは、練習ノートである。練習中に気になったこと、顧問や講師から指摘されたことなどをメモし、次の練習に活かしたり、後輩への指導に使ったりするためのノートだ。吹奏楽部員は、ときには部分的な楽譜やイラストなどを描きながら、丁寧に練習ノートをつけている。
練習ノートとは別に、部活ノートというものも存在する(学校によって様々な名称がつけられている)。これは、部活動の中で自分が感じたことを文字にする、いわば日記のようなものだ。日記と違うのは、部活ノートは顧問や幹部(部長やコンサートマスターなど部の中心的な役割の生徒)に提出したり、あるいはその内容が部内で共有されたりするなど、一種の「コミュニケーションツール」になっていることだ。
たとえば、『吹部ノート』には、実際に吹奏楽部員が部活ノートに書き記したこんな言葉を掲載した。
《とにかく上手になりたいです。もう、どこにいっても下手といわれるのは嫌です。》
《“がんばる"という言葉にうそをつかない!!》
《絶対負けない!!/・集中・すばらしい音楽・精神力!》
飾ることをせず、素直に自分の思いをシンプルな言葉でノートにぶつける吹奏楽部員たち。音楽という、感覚や感情を表現する芸術に向き合っているからこそ、真剣に自分や仲間たちのことを考えているからこそ、彼らは自分自身の考えや感じたことを恐れずに表現していく。パーンッとホールに響いていく伸びやかな楽器の音色のように、ストレートな言葉を綴っていくのだ。
一方、顧問の先生たちがノートを部活動に取り入れているのは、それが生徒たちの音楽的成長や部の円滑な運営につながるためだ。また、先生たちにとっては、大所帯の吹奏楽部の中で、一人ひとりの生徒の心理に目を配り、状況に応じて声をかけたりすくい上げたりするためにも、ノートは重要なツールなのだ。
他にも、吹奏楽部員たちが送り合っている手紙や寄せ書き、楽譜の書き込みなども総称し、「吹部ノート」と呼んでいる。そこに綴られた言葉は、純粋でひたむきな青春の日々をありありと記録したフィルムのようなもの。吹奏楽経験のあるなしを越えて、多くの方たちに感動と共感を与えるのではないだろうか。
そして、今もまさに、2016年度全日本吹奏楽コンクールへの出場を目指す吹奏楽部員たちが、「吹部ノート」を綴りながら、二度と戻らない10代の日々をかけて練習に没頭しているのである。