どうなれば成功なのか?【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第26回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

どうなれば成功なのか?【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第26回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第26回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」がついに単行本化され発売に! 総頁数:344頁。未公開の書き下ろし原稿(第36〜40回)も収録。視点が変わると、人生も変わる!あなたにとって大切な一冊になるとお約束します!


 

 

第26回 どうなれば成功なのか?

 

【成功は競争から生まれる?】

 

 「上手くいった」と思える瞬間が、日々の生活でも、また人生においても、ときどき訪れる。嬉しくて、「やった!」と叫びたくなる。このような体験が、その人の生きる喜びを形成するようにも観察できる。

 では、この「やった!」とは、いったいどういう状態なのだろうか? もっと簡単にいうと、「成功とは何か?」という疑問である。

 たとえば、ある人は勝負に勝ったときに、自分は成功した、と感じるだろう。またある人は夢が実現したとき、なんらかの利益を得たときに、「成功」を手にしたと考える。

 誰にでも成功はあるし、この成功の大きさや回数によって、成功者とそうでない人に分かれていくようにも見える。多くの場合、成功すると社会的地位が上がり、金持ちになるから、人から羨ましがられ、自分の好きなことができる、とイメージされる。しかし、同じ社会に生まれてきたのに、一部の成功者だけが幸せになるなんて、社会の仕組みが間違っている証拠だ、と考えてしまう人も多いだろう。

 ただ、少し想像してみたらわかることだが、社会の仕組みを変えても、成功者が入れ替わるだけで、やはり一部の人だけが成功する状況は変わらないだろう。たとえば、スポーツのルールを変更すれば、勝てる人が入れ替わるが、やはり、勝てない大勢の人たちがいるはずだ。この理由は単純で、成功者が一部なのは、一部だけに訪れる境遇が「成功」と呼ばれているためだ。99%の人たちが勝ち、1%の人が負けるようなギャンブルは存在しない。そんなルールにしたら、勝者が得る利益が100分の1になってしまい、満足が得られない。それでは「成功」といえなくなる。

 では、このような「競争」という操作でしか、人は「成功」を獲得できないのだろうか? もしそうならば、成功は多数の失敗から搾取する行為といえる。客観的に見て、倫理的とはいえないし、心が痛む人も多いことと思う。

 一般に、勝ち負けを競う行為は、それが仕事だということで処理される。仕事とは商売であり、生産して対価を得る活動だが、そこでは多かれ少なかれ、他者との競争に巻き込まれる。仕事でなくても、社会の中で良い立場を築くためには、競争に勝たなければならない。だから、勝つことが成功だ、という価値観がそこから生まれる。これは、スポーツなどでも顕著だ。

次のページ個人的な利益を成功と捉える

KEYWORDS:

✴︎森博嗣 最新珠玉のエッセィ✴︎

日常のフローチャート Daily Flowchart

✴︎絶賛発売中✴︎

 

[caption id="attachment_3661533" align="aligncenter" width="525"] ※カバー画像をクリックするとAmazonにジャンプします[/caption]

 

連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」がついに単行本化され発売に! 総頁数:344頁。未公開の書き下ろし原稿(第36〜40回)も収録。視点が変わると、人生も変わる!あなたにとって大切な一冊になるとお約束します!

 

「無事」を重ねることが、人生の成功である。少し気をつけていれば、誰でもできる。ときどき予期せぬ不運が襲ってきても、また少しずつ無事を重ねて挽回していけば良い。勝たなくても良い。負けても良い。またの機会を待てることこそが、成功の価値なのである。(第35回「充実した人生に唯一必要なもの」より抜粋)

 

◉人生はプログラミング◉水を差しにくい社会◉話し上手と書き上手

◉老人になっても社会人である◉余計なものを持つことの価値

◉気持ちという質量◉「潔癖社会」純度上昇中◉ジェネラリストは存在しない?

◉どうなれば成功なのか?◉適度な自己中のすすめ◉アイデアを思いつける人

◉思いつきの手法◉新しい価値は無駄から生まれる◉頭は知識で肥満になる

◉楽しければそれで良いのか?◉効率か快適か、それが問題だ

◉自己利益が最重要な方針◉作るために必要なこと

◉一人でいることは、自由の象徴◉充実した人生に唯一必要なもの

◉AIが活躍する未来って?◉的確な質問をする能力

◉ネットのモラルはこれから◉フィクションを楽しむ条件

◉いつ死んでも良い生き方とは etc.

オススメ記事

森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

静かに生きて考える
静かに生きて考える
  • 森博嗣
  • 2024.01.17
道なき未知 (ワニ文庫)
道なき未知 (ワニ文庫)
  • 博嗣, 森
  • 2019.04.22