第17回:「干支 言えない」(後編)
<第17回>
1月×日【干支 言えない】 (後編)
(前回からの続き。小学3年生の頃、クラスで一、二を争うバカだったワクサカさんと本田くん。そんな本田くんから突然「・・・お前、干支って全部言える?」と挑戦状を突きつけられて…)
十二種類の動物を、ある法則に沿って順番にスムーズに唱えていく。
それは、バカにとって至難の業である。
それを本田くんは、手中におさめたというのか。
もし僕がここで干支をすべて言えなかった場合、クラスで一番のバカは僕ということが明白になる。
しかし、この勝負、逃げるわけにはいかない。
どっちがバカか、はっきりさせる時がきた。
僕は深呼吸をし、間を置いたのち、干支を唱えた。
「ねー、うし、とら、みー、たつ、みー、うま、みー、ひつじ、うま、ひつじ、みー、ひつじ、とら、いぬ、いー」
ダメだ。
蛇の含有量がすさまじい。ここはジャングルか。
加えて、後半の羊の登場率も目に余る。
だいたい、十二匹を越えている。これは十何支なのだ。
負けた。本田くんに負けてしまった。
さぞ本田くんは勝利の喜びを表情にたたえているだろうとチラっと見ると、まさかの歯噛みをしていた。
「・・・お前、やるな」
本田くんは、悔しそうにつぶやいた。
忘れていた。本田くんも、バカだったんだ。
そして本田くんも息を整え、
「次、オレの番な」
と僕に告げ、干支を唱え始めた。
「ねー、むし、とら、うー、うま、いぬ、いー」
少ない。
圧倒的に、十二匹に足りない。
あと、明らかに虫がいた。
ふたりのバカの間に、生ぬるい空気が流れた。
そのあとふたりがどんな会話をして帰ったのか、いまは思い出せない。
三年生の三学期の終りに本田くんは転校してしまい、クラスでバカは僕ひとりになった。
冬になるたびに、本田くんのことを思い出す。
本田くんは、いまはもう干支を言えるようになっただろうか。
一月の青空に向かって干支をつぶやいてみたが、やっぱり巳以降の展開が複雑であった。
*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。今年もよろしくお願いいたします!