エマニュエル・トッド理論で見通す。ヒットラードイツと安倍政権をつなぐもの
〜マザコン息子ヒットラー、そして「忖度」の習慣〜
■権威ある母親のもとで幻想の父親はつくられる
ところで、直系家族の解体期にある息子の場合、アイデンティファイすべきスーパーファーザーというのは、不思議なことに、畏怖を与えるような完全に男性的な父親ではなく、不安を癒し、励ましてくれる母親的な要素を含んだ父親でなければならないということです。私は、父系での遡行が行き止まりになっているために母系で遡行しなければならないためと考えていますが、この母系遡行が起こるのは、直系家族特有の母親の潜在的な権威(長男の嫁としての地位の高さ)のためではないかと想像しています。権威ある母親をもとに幻想の父親がつくられていくのではないでしょうか?
このことはトッドがまだ言っていないことですが、私がヒットラーの伝記を読んだ限りではそう思えます。
■直系家族に特有の「忖度」の習慣
また、直系家族国家においては、いったんヒットラーのような独裁者が生まれると、だれもこれに逆らうことなく、国民が打って一丸となりファシズム体制を完成してしまうのは、直系家族に特有の「忖度」の習慣のためではないかと思います。これについては、イアン・カーショーが『ヒトラー』で指摘している次のような言葉が参考になると思います。
「ヒトラーの個人的支配は、下からのイニシアティヴを誘発し、ヒトラーがゆるく規定する目標と一致するかぎり、そうしたイニシアティヴを後押しした。(中略)このことは、競合しあう諸部局のあいだでも、そうした諸部局の個々人のあいだでも、つまりは体制のあらゆるレベルで猛烈な競争を生んだ。第三帝国というダーウィニズムの密林では、『総統の意志』を先んじて実行し、ヒトラーが目指し望んでいると思われることを進めるべく。命じられる前にイニシアティヴを発揮することが権力と出世の道だった。ナチ党の幹部やイデオローグにとっても、親衛隊の『権力テクノクラート』にとっても、『総統の意をくんで働く』というのはまさに文字通りの意味だった」
■忖度がファシズム化を促す!?
ことほどさように、直系家族から直接的にファシズムが出てくるわけではないのですが、いったん独裁者が出てしまうと、直系家族は、権力者の意をくむ「忖度」の習慣が強いので、あっというまにファシズムに転化してしまう確率が高いのです。
この意味で、籠池(森友)問題で話題になった官僚たちの忖度こそ、もっとも危険なファシズムの兆候なのです。
(『エマニュエル•トッドで紐解く世界史の深層』より構成)
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