日米通算2254安打、右方向へのホームラン…井口資仁の打撃論
井口資仁監督に聞く。Q20.バッティングの技術で大事にしていたことはなんでしょうか?<前篇>
■「引き付けて打つ」打撃論
打席で一番大事にしてきたことは、スイングするときに、自分の力をできるだけロスなくバットに伝えるということですね。
具体的に言うと、腕が体から離れた状態でインパクトすると力が逃げてしまうので、できるだけ脇を締めながら、体を回転させてスイングすることを心掛けていました。
ダイエー・ホークス時代。僕は城島健司とともに、今年からマリーンズの打撃コーチに就任する金森栄治さんの教えを受け、この打撃スタイルを確立しました。
当時、金森コーチは、この打ち方を、投球をできるだけ捕手寄りに「引き付けて」スイングすると説明してくれたんです。右打者で言えば、右腰の前あたりでインパクトするイメージ。そして、地面から垂直に伸び、右股関節を通る軸を中心に回転してスイングするようなイメージですね。
僕にはその説明がしっくりと来て、自分の基盤となるべきバッティングスタイルを確立できました。右方向に強い打球を放つという僕の理想の形です。そして実際、僕は自分のバッティングを取材などで説明するとき、この「引き付ける」という表現を使ってきました。
でも、ここ数年、その表現が適切なのかどうか、疑問を持つようになったんです。この連載でも述べていますが、人にものを伝えるのは本当に難しいこと。だから、この表現を聞いた人の中には、投球を「引き付ける」という感覚を、金森コーチや僕と同じようにイメージできない選手もいるのではないか…。「引き付ける」というのは、あくまで打撃におけるイメージですからね。
■「前で打て」という指導は誤解を生む
打席でバットを構えた状態の右腰の前……文字通りにそのポイントでインパクトしようとしたら、打球を前に飛ばすのは容易ではありません。また、厳密に右股関節にある軸を中心として回転しようとしたら、右足に重心が残りすぎていて、まともにバットを振れないでしょう。
実際にスイングするときは、体を開きながら腰を回転させて打つので、ちょうど右腰の前あたりのインパクトすることになるのですが、「右腰・右股関節」という言葉を出すことによって、誤解する選手もいるのではないかと考えました。
では、金森コーチと築き上げたこの打撃の特徴・長所を正確に伝えるために、どう表現すればいいのか? そう考えてたどり着いたのが、ボールを体の近くで捉えること……つまり力をバットにロスなく伝える、という言い方です。